前回、問題解決や改善をしていく場合の、どうやって現状を把握するかについて紹介した。ホワイトボードなどを使い倒すツール(1)「箇条書き」に続き、今回も問題が発生しているメカニズムを洗い出すための、2つ目のツールを紹介していこう。また最後に、新規事業/変革の場合についても説明する。
米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、最新作『グローバル・モード』から抜粋してそのコツを紹介する。
前回は、問題解決や改善をしていく場合の現状の把握の仕方について紹介しました。ホワイトボードなどを使い倒すツール(1)「箇条書き」に続き、今回も問題が発生しているメカニズムを洗い出すための、2つ目のツールを紹介します。因果関係、いわゆる「ロジックツリー」を利用するものです。
ツール(2)「因果関係」(Causal relationship)
この問題解決/改善の面談でフォーカスしたいことは、「問題」「原因」「影響」をきちんと把握することです。そのときに有効なツールが「因果関係」。情報のピース1つ1つがどう絡んでいるかを整理するには、「矢印を使った図解」が一番です。
AがBを引き起こした、AがBの原因だ、という因果の方向が間違えていないか、しっかり確認しましょう。例えば、機械の故障(Machinery malfunction)と、ローンチの遅れ(The product launch delay)という2つの情報があったとき、ここに因果関係が存在しているのかどうかを確認します。ホワイトボードに書く際は、矢印を使って視覚化します。
Can we confirm that the machinery malfunction caused the product launch delay?
→機械の故障が、製品ローンチを遅らせた、ということですね?
So the malfunction made the delay.
→故障が遅れにつながったということですね
ここで終わらせず、他に原因がないかを探ります。例えば、「Is there any reason for the delay other than the malfunction?」(→機械の故障以外の原因はなかったのですか?)と聞けば、「Actually, there was also a shortage in materials.」(→実は、原材料の不足もありました)と新たな情報が出るかもしれません。
OK. So, now we know that both the malfunction and the material shortage caused the delay.
→機械の故障と原材料不足の両方が、ローンチの遅れを起こしたのですね?
The delay was caused by both the machinery malfunction and the material shortage.
→ローンチの遅れは、機械の故障と原材料不足の両方が原因です
ここで気を付けるべきは、「Logical fallacy」(論理の誤謬)を見つけることです。誤謬はこじつけやへりくつとも取れる、ゆがんだ論理のパターンで、アリストテレス以来研究されてきました。西洋文化においては、日常生活でも誤謬に焦点が当たることはよくあります。
ビジネスは、ディベートでも口ゲンカでもないので、故意に詭弁を弄する人はそうそういないかと思いますが、合理的な結論を求める際は、論理が通った議論が不可欠であり、常に気をつけたいところです。
その筆頭に「虚偽の原因」(False Cause)というものがあります。きちんとした因果関係がないものを、あたかも原因と結果のように話すことです。相関関係と因果関係を混同する、起きた事象の時系列だけを見て原因と結果の関係をこじつけるなどがあります。
例えば、「A社の社員は皆優秀だから、A社に入れば優秀になる」というのは、そもそも優秀な人だけがA社に入っている可能性があり、A社が人を育てているとは限りません。
背景や考え方、行動様式すべてにおいて自国の常識が通じないグローバル環境においては、因果関係がごちゃ混ぜとなって相手に伝わる事故はよくあります。因果関係を可視化して共有することは非常に重要なスキルです。あやふやな点はホワイトボードを使い、きちんと書き出して確認しましょう。
Are we sure about the causal relationship here?
→この因果関係は確証が持てますでしょうか?
Did A cause B? Or vice versa?
→AがBを起こしたのですか? その反対はあり得ませんか?
Could this be just correlation, not causation?
→それは相関しているだけで、因果ではないのでは?
malfunction/material shortage ⇒ launch delay
まだまだ追求の手を緩めず、もう少し先の原因も聞き出しましょう。「So why did the machinery malfunction occur?」(→では、なぜ機械の故障は起きたのですか?)、「What caused the machinery malfunction?」(→なぜ機械の故障は起きたのですか?)と聞くと、例えば以下のような3つの原因がわかるかもしれません。
A rat chewed through the wires.
→ねずみが電線を噛みちぎった
There was no backup generator.
→バックアップの発電装置がなかった
The mechanic was on holiday and couldn’t fix it on time.
→メカニックが休暇中で期日までに復旧できなかった
こうやって聞き出した様々な情報の因果関係をわかりやすく整理するには、ロジックツリーを用いると便利です。
私の個人的な感想ですが、日本のビジネスパーソンの多くは海外の人に比べ、突然「なぜ?」と聞かれたとき即座に答えるのは苦手ですが、共同でロジックツリーを作る時は主導しているケースが多い印象があります。
もしかすると、瞬時に理由を挙げるのは得意でなくても、じっくり議論しながら因果関係を抽出することは得意なのかもしれません。ここでも、ホワイトボードを使った因果関係の整理によって、皆の理解に拍車がかかるのがポイントとなります。
シンプルな因果関係を示すときは「原因→結果」という方向が視覚的にもわかりやすいですが、ロジックツリーは「結果」が先(一番左)に来て、その原因が右側に連なる形が一般的です。