発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。連載一覧はこちら。
「働く」と「休む」の境界が消え去る
在宅ワークの環境を整えるにあたって、多くの人が最初に思いつくのは業務用の道具だと思います。たとえば、それはオンライン会議のためのウェブカメラかもしれませんし、あるいはちょっといいキーボードやタブレットだったりするでしょう。
しかし、自宅を職場として使うときに最も重要なのは「働く場所」ではありません。働くだけであれば、結構無理は利きます。実際、多くの職場におけるオフィス環境はそんなによいところばかりではないでしょう。狭いスペースに無理やり詰め込んだ机、どぎつい照明、人と人の絶え間ない行き来、そういう状況下で仕事をしている人は決して少なくないはずです。
では、なぜその状態で人はそれなりに働けてしまうのか。それは、自宅という「休む場所」がしっかりと存在するからです。仕事が終われば会社から出て、そこで一度時間に区切りがつけられる。この機能はバカにできない重要さを持っています。在宅ワークの最大の問題は、このオンとオフの区切りが失われてしまうことに他なりません。僕自身も、1台のパソコンを仕事にも娯楽にも使っているので、気づいたらパソコンに向かったまま20時間くらいが過ぎていることがざらにあります。
食事も晩酌もすべて仕事用パソコンの前で済ませている。そういう人が在宅ワークの一般化で激増するのではないかと僕は懸念しています。しかし、これは明らかに問題を呼び込むスタイルの生活です。絶対に避けるべきだと、心から僕はそうお伝えしたい。
仕事と休息のどちらが重要かといわれれば、それは当然休息のほうです。「しっかり休まなければ働けない」。この至極あたりまえの感覚を忘れないでください。
狭いワンルームでも「休む場所」はつくれる
対策としては、何よりもまず「働かないイス」を1脚用意してください。このイスに座ったら、仕事のことを絶対に考えてはいけません。たったこれだけで、あなたの部屋には「働く場所」と「休む場所」の境界が生まれます。
イスはいわゆるリラックスチェアと呼ばれるものがよいでしょう。僕も最初は余ったオフィスチェアを「休息用」に使ってみたのですが、あまり効果的とはいえませんでした。やはり背もたれがやや倒れた幅の広いのんびりと身体を投げ出せるイスがベストです。「働かないイス」の横にはミニテーブルがあるとなおよいです。そして、できればタブレットなどの娯楽用端末があればいうことがありません。
時間の切れ目、オンとオフの切り替えは頭の中だけでやろうとしても非常に難しいところがあります。リフレッシュするべきなのに、気がつけば布団の中でグルグルと仕事のことを考えているあの状態は全く休息になっていません。
さらに、オンオフの欠如は「休めない」と同様に「仕事に集中できない」という最悪の状態をもたらします。仕事から休息に移行できないのであれば、休息から仕事に移行することも当然難しくなる。さぁ働くぞと思ってデスクに陣取ったはいいが、気づいたらSNSを眺めているうちに正午を迎えてしまった。あの悲しい出来事を防ぐにもこの工夫は大変効果があります。