理想とする人間像が異なる日本とアメリカの価値観

 たとえば、発達期待(子どもたちに、こんな人間に育ってほしいといった親が抱く期待)の日米比較研究を見れば、日本とアメリカで教育すべき内容がいかに異なるかがわかるはずだ。心理学者の東洋とロバート・D・ヘスらは、母親が就学前後の子どもに、どのような性質や行動を身につけてほしいと期待しているかに関する日米の比較研究を行っている。

 それによれば、日本の母親はアメリカの母親よりも、子どもに対して、従順さや情緒的成熟に関して強い発達期待を持っていた。つまり、「言いつけられた仕事はすぐにやる」というような従順さや、「いつまでも怒っていないで、自分で機嫌を直す」というような情緒のコントロールなどで、日本の母親の発達期待がアメリカの母親のそれを明らかに上回っていた。

 一方、アメリカの母親は日本の母親よりも、子どもに対して、社会的スキルと言語的自己主張に関して強い発達期待を持っていた。つまり、「友だちを説得して、自分の考えや、したいことを通すことができる」というような社会的スキルや、「自分の考えを他の人たちにちゃんと主張できる」というような言語による自己主張などで、アメリカの母親の発達期待が日本の母親のそれを明らかに上回っていた。

 発達期待に関する別の国際比較調査では、幼稚園・保育園の先生や保護者に対して、園で子どもが学ぶべき、もっとも大切なことは何かを尋ねている。その結果を見ると、日本では共感・同情・他の人への心配りがもっとも重視されているのに対して、アメリカではそのような性質はほとんど重視されていない。一方、アメリカでは自信を持つことがもっとも重視されているのに対して、日本ではそのような性質はあまり重視されていない。

 このように実証的データを見ると、自信を持つこと、自己主張すること、相手を説得して自分の思いを通すことが重視されるアメリカ社会と、思いやりを持つこと、協調的であること、素直・従順であること、わがままを言わないことが重視される日本社会では、理想とする人間像がまったく対照的といってもよいくらいに異なっている。

 そうであれば、教育によって人格形成をしていく方向性も大いに違っているのが自然である。