さまざまな国の社会で格差が広がっているといわれている。“フランス最大の知性”ともよばれる歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、社会的階級を再生産し、格差を拡大させる大きな要因が「教育」にあると見ている。トッド氏の最新刊『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』(訳:大野 舞)から一部を抜粋して紹介する。
エリート対大衆の闘争が始まる?
マルクスは『フランスにおける階級闘争』をまさしくフランスで書いたわけですが、そのフランスで2018年から起きていたのは、仏大統領マクロン派の権力側と「黄色いベスト」たちの対立です(「黄色いベスト運動」。燃料税の引き上げ反対から始まったフランスの国民的デモ運動を指す)。これは高等教育を受け、非常に頭が良いとされながら実際には何も理解していない人々と、下層に属する、多くは30代から40代の低収入の人々、高等教育を受けていないながらも知性のある人々の衝突でした。つまり、フランスのような国では学業と知性の分離というのはすでに始まっていることなのです。
今、再考されなければならないのは、生活水準や生産手段の中での位置付けなどです。教育レベルは明らかに低収入の人々を過小評価するための論拠となっていると私は見ています。私は日常生活を送る中でいろいろな人々と話をしますが、庶民階級で非常に知性溢れる人々がたくさんいる一方、上流階級には信じられないほど愚かな人々がたくさんいるのも事実です。これが今の階級構造だと思います。
しかしこれは同時に良いことでもあります。なぜならば、これまで支配されてきた層の人々が道徳面でも知性の面でも徐々に力をつけてきていると言えるからです。そして黄色いベスト運動でもそうでしたが、彼らは彼らの中で自分たちのエリートを見つけています。これはまだ、新しい歴史のほんの冒頭部分にすぎません。今日、エリート校の出身ではない学生も増えています。これまでのように高等教育が貧困に対する盾になるという保証も消え去りました。だから、これから何かが起きることは明らかでしょう。まさしく階級闘争の再到来です。