グーグルの「広告オークション」でも使われる

 実は、ゲーテのやり方だと、ヴューイッグ氏にとっては、支払える最高額を正直に提案額として提示するのがベストな選択である、ということが知られている。

「知られている」というのはどういうことかと言うと、この状況がゲーム理論によって数式で記述され、ヴューイッグ氏のベストな選択が「支払える最高額を正直に提案額として提示」であるということが証明された、ということだ。

 つまり、ヴューイッグ氏がよくよくゲーテの手紙を解読すると、正直に自分の支払える最高額を提案額として書くだろう。よってゲーテにとっては出版社についての情報が増え、「著者の闇」が少しは晴れるというわけである。

 ちなみに「数式」と書いて脅かしたが、これは実は数式を使うまでもなく、よくよく頭で考えると分かる問題である。意欲的な読者は、ヴューイッグ氏の立場に立って、「正直に支払える最高額を提案額として提示」した場合と、「そうしなかった場合」の損得を、さまざまなゲーテの要求額のもと、比べてみて欲しい。

 さて、このゲーテが考えた方法は、実は現代でも大いに使われている。それは、「オークション」でだ。基本的にゲーテの考えたのと同じアイデアが、たとえばグーグルの広告オークションで使われている。

 グーグルに広告を掲載したい広告主は、広告スポットをオークションで勝ち取らなければいけない。その際に、広告主が支払ってもいいと思っている最高額を正直に入札するような仕組みが、使われているのである。フェイスブックの広告も、類似の方法のオークションを使っている。

 グーグルやフェイスブックを崇め奉るのもいいが、その前に、現代ビジネスパーソンの教養として、ゲーテの『ヘルマンとドロテーア』を読んでおくといいかもしれない。ちなみに私は、読んだことがない。

参考文献:Moldovanu, B. and  M. Tietzel (1998): “Goethe’s Second-Price Auction,” Journal of Political Economy, 106, 854-859.