ピラミッドを登ることで、自分は幸せになれるんだろうか

水野敬也
1976年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。初の著作『ウケる技術』(共著・新潮社)が25万部のベストセラーに。代表作である『夢をかなえるゾウ』シリーズ(文響社)は累計400万部を超える大ヒットシリーズとなり、最新刊『夢をかなえるゾウ4』でも大きな反響を呼んでいる。『人生はワンチャンス!』『人生はニャンとかなる!』(ともに文響社)、『雨の日も、晴れ男』(文春文庫)などの書籍でも知られ、『人生はニャンとかなる!』は2014年度全書籍売り上げの2位を記録するメガヒットとなった。また、恋愛体育教師・水野愛也として、『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』(ともに文響社)、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本も担当するなど活動は多岐にわたる。

水野敬也:Tomyさんのお話を聞いて「手放すのが難しい」というのは、本当にその通りだと思います。Tomyさんがパートナーさんとの死別で愛を全部手放したかというと、決してそうじゃないと思うんです。愛しているから苦しい。それは人として自然のことだと思います。大事なのは「手放せない」という、とらわれた状況から抜け出すこと。抜け出したあとに、また手放せない状態に戻ってもいいと思うんです。

執着することがあってもいいけれど、それがどうしようもなく苦しいなら手放してもいい。両方を選択できる状態が望ましいんじゃないでしょうか。

僕は『夢をかなえるゾウ4』で、はじめて「死」というテーマに取り組みました。人間って、なにか大きな災いに直面すると、死について臨場感をもって考えるようになるのに、時間が経つにつれ、結局は忘れてしまうところがあります。3.11の頃もそうでしたし、今回の新型コロナウイルスもそうなるかもしれません。

僕自身、死について深く考えることがあっても、やっぱりしばらくすると日常の波に飲み込まれてしまう。この状況にもどかしさを感じつつも、具体的に作品としてどう落とし込んだらよいのかがわからず、ずっともてあましてきたんですね。

振り返ってみると、僕は「もっとお金を稼ぎたい」「もっとモテたい」といった、資本主義なピラミッドの頂点を目指す努力を続けてきたように思います。でも、『夢をかなえるゾウ3』が刊行された2014年末のあたりから、ピラミッドを登るのがつらくなってきた。「これ以上ピラミッドを登ることで、果たして自分は幸せになれるんだろうか。ピラミッドから一度降りることも必要なんじゃないか」と思うようになったんですね。

そんなときに編集者が、「『夢をかなえるゾウ4』でそんな話を書いたらどうか」と言った。それを聞いた瞬間、「死」と「ピラミッドから降りる」という2つのテーマがつながったような気がしたんです。

「これを成し遂げたい」「好きな人と一緒にいたい」などと夢を強く抱いている人も、死に直面すれば必ずその夢が分断されます。つまり、夢をあきらめるということと死は究極のところでつながっています。ぼんやり温めてきた「死」というテーマと、登り続けてきたピラミッドから降りたいという思いが絶妙に重なったことで、『夢をかなえるゾウ4』という作品に結実したわけです。