電気代を払えなければ
エアコンは「ただの箱」

 そして、エアコンがあれば「一件落着」というわけではない。電気代がなければエアコンは使えない。しかし現在のところ、夏の冷房に関する費用助成は存在しない。

 2020年2月29日に公開された、大阪市の「お寄せいただいた市民の声」には、早くも夏の生活保護の暮らしを危惧した意見が寄せられている。

 病気のため生活保護で暮らし始めて2年目になるという投稿者は、「冬の期間は暖房費が支給されていますが、夏の冷房費の支給がありません」「生活保護者に冷房は贅沢と言うなら議論は不要ですが、実際に暖房より経費が掛かります」「市議会で冷房費の是非を議論してもらえないでしょうか」という。

 大阪市の回答は、「独自の基準を設けるなど、地方自治体の裁量の余地はないものとなっています」と素っ気ない。ふだん、生活保護にかかわる費用を削減する場面での大阪市が、いかに厚労省方針に反し続けているかを知っている筆者としては、「裁量の余地を発揮するところが間違っている」と叫びたくなる。しかも、冷暖房費に関する独自裁量の前例が、北海道の「薪炭費」という形で存在する。

 生活保護世帯で冷暖房の電気代がかさむ理由の一つは、住環境にある。生活保護の家賃補助の範囲で選べる住まいが「一定の断熱性能が期待できる、築年数せいぜい20年以内のマンション」であることは、滅多にない。その住まいで、高性能でも省エネタイプでもないエアコンを使用するのである。

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 生活保護世帯に冷暖房費用を聞くと、高額であるため驚くことが多い。しかし詳しく聞くと、夏は暑く冬は寒く隙間風が吹き込む住まいで、1990年代に製造された「National」ブランドのエアコンを使用していたりする。夏の昼間、耐え難い時間帯に少しだけ使っているエアコンの電気代だけで、1ヵ月あたり5000円を突破したとしても、当然なのだ。

 夜間は「気温が下がるからエアコンは使用しない」という人々も多い。しかし、寝ている間に熱中症に罹るというパターンもある。朝、室温が上昇して体調の変化に気づいてからエアコンを稼働させても、「時、すでに遅し」ということもある。

「健康で文化的な生活」を可能にする生活環境とは、どのようなものなのだろうか。「最低限度だけど、健康で文化的な生活が保障されている」とは、どのような状況を指すのだろうか。残暑と来たる冬、そして来年の夏のために必要なのは、冷静な国民的議論であろう。

(フリーランス・ライター みわよしこ)