文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。ある時、週刊文春の契約記者に応募してきた1人の女性――。このひょんな縁から『東大合格生のノートはかならず美しい』というベストセラー書籍と、コクヨ『ドット入り罫線ノート』のコラボが誕生した経緯を振り返ります。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)
コクヨ担当者を即断させた
若きデザイナーの徹夜仕事
雑誌畑の私が、書籍も一応はつくれると社内で認知されるようになったのは、若い後輩たちのお陰でした。
中国語訳、韓国語訳も含めて累計50万部以上を記録した2008年刊行『東大合格生のノートはかならず美しい』は、コクヨが開発した東大生の意見を聞いた使いやすいノート『ドット入り罫線ノート』とコラボして大きな話題を生みました。ドット入り罫線ノートは累計4億冊ですから、お互いウィンウィンのコラボでした。
ちょうど電子書籍が上陸した頃で、逆に東大生による手書きの美しいノートが、衝撃を与えたのだと思います。
忘れられないのは、コクヨとのコラボが決まった最初のプレゼンです。コクヨの広報の方に私がモゴモゴ説明していると、若いデザイナーが突然、本のようなものを取り出しました。それは、東大生のきれいなノートをカラーコピーにして本のように重ね、背表紙にあたる部分にカッターで切れ目を入れて接着剤で固めた即席本。表紙は真っ赤な色で、「東大ノート」の文字が金色で書かれてあります。
コクヨの広報の方は最初、食い入るように東大生のノートを見ていましたが、「しばし時間をください」と会社の奥に戻り、すぐ戻ってきました。