「ダウンストリーム・インパクト」効果の発見

 問題が起きたときは、顧客のことを考えて、状況を正すためにできる限りのことをします。ここに驚くべき事実があります。私たちのサービスで何も問題を経験したことがない人よりも、問題を経験した人のほうが、継続して利用する傾向が見られることです。例えば、2017年のクリスマスに、注文に支障が生じて返品した人や、私たちが返金を申し出た人を追跡調査したところ、私たちのサイトを再び訪れて、さらに多くの買い物をした人が、平均的な顧客よりも多くいました。

 このときだけではありません。その後もしばらく追跡調査をしたところ、あるパターンがわかりました。何か問題が起きるたびに、顧客を大切にして対応すれば、平均より長い生涯価値をもたらすことが裏付けられたのです。

 商品の無料交換など、顧客を幸せにするために必要なコストはすべて、投資へのリターンを考えれば微々たる金額です。初期の頃は、これを証明するデータがありませんでした。それが正しいと推測して、やるべきことをやるという、自分たちの信念に賭けたのです。

 現在は証明するデータがあります。これは私たちが「ダウンストリーム・インパクト」と呼ぶ指標で、「ある顧客のために今日何かをしたら、12ヵ月後、18ヵ月後、さらにその先に、顧客はどのように振る舞うか」を数値化したものです。その結果、顧客のロイヤルティと長期的な価値は、2~5倍に増えることがわかりました。

 例えば、平均的な顧客がもたらす長期的な価値を200ドルとします。一方で、私たちのサービスで何らかの不満を体験した顧客は、その否定的な体験に肯定的な対応をされた場合、12~18ヵ月後に400~1000ドルの長期的価値をもたらすのです。

 これは信念の賭けでも、推測でもありません。やるべきことをやって、ミスや間違いを修正すること以上の対応をして、最大限の満足と「ワオ!」にふさわしい体験を提供することが、顧客価値を2~5倍に高めているのです。

 ワオ!

 このデータを社内で利用できるようになったのはここ2、3年で、広く発信するのは今回が初めてです。企業がより良いカスタマー・サービスのモデルを導入して、サービス第一主義を徹底する。そのことを妨げるものがあるとすれば、とらえどころのない概念だったからでしょう。しかし、業界のリーダーがこのデータを見れば、さまざまな分野で広くサービスが向上して、大きな変化が生まれてくれると期待しています。

 顧客価値を2~5倍に増やしつつ、同時に等式の両側ですべての人の体験を向上させたい。そう思わない企業があるでしょうか。

 2~5倍という数字は始まりにすぎません。ザッポスブランドのカスタマー・サービスを体験した顧客のほとんどは、私たちが「愛好家」と呼ぶセグメントに成長します。ブランドを愛する人々です。愛好家になった人は、めったに離脱しません。よそ見をしたとしても、何回でも戻ってきます。私たちのブランドの擁護者になって、生涯のお得意様になります。

 強力な擁護です。そして、間違いなくリアルな力です。