複数の候補からリードインベスターを絞り込む
村上:資金調達のプロセスで面白いのは、リードインベスターは、ラウンドを開始した時点では決まっておらず、複数いる投資家の中から一定のコミュニケーションを経て絞り込んでいくものである、という点です。
リードインベスターを絞り込む要件は様々で、会社側が希望する投資条件を提示したうえで、そうした条件に適合する投資家がリードインベスターになることもあります。一方で、現在のように先行きが不透明な状況で条件を決めづらいといった場合、候補となる投資家が複数いれば、彼らの声を聞きながら、最もフェアで合意形成が可能な投資契約条件を探っていくことも可能です。
朝倉:起業家にとって、自分たちの調達ラウンドを形成し、これから長く付き合っていくリードインベスターがどんな相手なのかは非常に重要ですね。複数候補の中からリードインベスターを絞り込んでいくプロセスは、会社にとって非常に重要なものです。
村上:もう1点、会社にとって、複数のリードインベスター候補とコミュニケーションを取ることには副次的な効果があると思います。それは、複数のリードインベスター候補とコミュニケーションを取る中で、事業戦略に複眼的・本質的なレビューが入り、調達戦略だけではなく、経営課題もクリアになる、ということです。
確たるリードインベスターが存在せず、少額の投資家が多数散らばっているような場合には、さほど深いコミュニケーションがないまま起業家側が提示した投資契約条件に決まることがあります。そうなると、投資家サイドでも責任不在になりがちですし、投資家との交渉で経営戦略が磨かれるという貴重な副産物が生まれにくくなります。
小林:資金調達にかかる労力の観点からは、少額で多数の投資を集める方が、デューデリジェンス(DD)の負担は軽減されます。しかし、リードインベスターの厳しいチェックを受けた方が、経営力が磨かれ、将来的な成長の糧になるという側面は確実にあるでしょう。
村上:その通りだと思います。よく「リードインベスターはなぜ必要なのか?」という質問を受けますが、リードインベスターとのコミュニケーションによって、成長戦略の解像度が上がりますし、投資家が求める水準・視座で説明できるようにもなるでしょう。これは次の資金ラウンドやIPOを見据えた時に非常に大きなメリットだと思います。
次回ラウンドのリードインベスターを巻き込む役割
朝倉:スタートアップの世界でやや特異に感じられるかもしれない点は、VC同士は必ずしも競合関係にあるわけでもないということですね。むしろ協調して投資を進めるケースの方が多い。この点、「プライベート・エクイティ」という意味では同じカテゴリーに括られるバイアウトファンドの場合、基本的には特定の投資家が全株式を取得するため、時としてビッド合戦が生じることもありますし、案件を奪い合うこともある。
一方で、ベンチャー投資の場合、複数の投資家が連携してリスクをとることが多い。特にアーリーステージに投資するVCの場合、手掛ける投資案件も多いため、別の案件でも同じ顔ぶれで協調投資することも頻繁にあります。
局所的にリードをとりたい投資家が競り合うということもありますが、基本的には協調的な「繰り返しゲーム」ですね。
小林:ベンチャー投資の世界が協調的になるのは、リードインベスターが次の資金調達ラウンドに繋げていく役割を担っているからといった事情もあるからではないかと思います。
責任感のあるリードインベスターであれば、自分たちも会社を支えつつも、次のラウンドで新たなリードインベスターをしっかり巻き込もうと考えるものではないでしょうか。そのため、協業的な取り組みや情報交換が行われます。投資家間で連携を強める動きの根底には、他の投資家にしっかり引き継ごう、バトンを渡そうという思いがあると感じます。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 編集:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/6/21に掲載した内容です。