縦割り行政は、官僚の能力の問題ではない!
制度的な根深い問題である

 この連載では、そして、日本で縦割り行政が深刻となるのは、2つの制度的な問題があると主張してきた(第183回)。

 第一に、日本の国家行政組織が「国家行政組織法」と各省庁の「設置法」で規定されていることだ。国家行政組織法は、行政機関は設置法によって定められるとしており、設置法は「各省庁の任務・所管業務」を細かく決めている。各省庁は、設置法に基づいて業務を行い、それを超えることはできない。設置法を超える任務・所管業務を行うとなると、法改正が必要となる。また、新しい任務・所管業務を行う役所を新設するとなると、新しい設置法を制定する必要がある。

 第二に、日本社会全体に根差した新卒一括採用・年功序列・終身雇用の日本型雇用システムだ。日本の官僚組織では、新卒の国家一種試験合格者を、省庁別に採用する。それから、短期間に他省庁などに出向する期間を除き、退官して民間企業などに移籍するまで、基本的に同じ省庁内でキャリアアップしていく。

 この2つの制度がなぜ問題かというと、日本の官僚組織で、政策課題の解決よりも組織を守ることが重要視されるようになるからだ。

 組織とその任務・所管業務が法律で決められているため、各省庁では、決められた業務の範囲内で政策を考えることになる。それを超える解決策が出てきても、さまざまな論理をひねり出して、それを排除しようとするようになる。ましてや、他省庁に権限を譲らなければならないような事態は、絶対に避けようとする。

 その上、年功序列・終身雇用の人事システムで、官僚は「組織防衛」ありきの発想になる。「政策課題を解決するに何がベストか」という発想は、後回しになってしまう。そして、政策のスペシャリストを中途採用で雇用することも難しい。

 要するに、「縦割り行政」は、官僚の人間性や能力、モラル意識などで起こることではないのだ。むしろ、「国家行政組織法」と各省庁の「設置法」による各省庁の業務内容の制限と、年功序列・終身雇用の日本型雇用システムの組み合わせという制度的な問題によって起こるのである。

 従って、その改革は、河野氏の発信力で世論を動かせばなんとかなるものではない。日本社会・行政組織全体を見直す制度設計を、中長期的に議論する必要があるのだ。

「縦割り行政」が起きにくい英国
政策重視で柔軟な政治から学ぶべきこと

 この連載は、英国を事例として「縦割り行政」打破の提案をしてきた(第183回・p2)。英国政治の特徴の一つは、省庁の設置、分割、統廃合が首相の専権事項だということなのである。首相は政策目的の達成のために、柔軟に省庁の機構変更を行う。官僚機構の形は頻繁に変更されるのだ。

 言い換えれば、英国は、省庁の任務・所管業務を変えたり、新しい省庁を設置したりするのに、日本のような国会審議を経ての法律改正が必要ないのである。

 また、英国の中央省庁では、いわゆる「年功序列」「終身雇用」の日本型雇用システムのような人事制度がない。英国の企業や官庁などの組織では、ポジションごと、外部にオープンな公募で人材を集める慣行がある。必要ならば、英国人に限らず、世界中から人材を集めることもある(第19回)。

 具体的な事例としては、2016年の英国のEU離脱の是非を問う住民投票で、離脱派が勝利し、テリーザ・メイ首相が就任した時、メイ首相は就任直後に自らの決断で「EU離脱省」という新しい役所を設置した。そして、EU離脱にかかわるさまざまな政策のスペシャリストを新たに雇用し、EUとの交渉に備えたのだ。

 もちろん、英国でも財務省や内務省、外務省など重要な省庁が簡単に改廃されることはない。しかし、EU離脱のような特別な政策課題が浮上し、既存の省庁で対応しきれない場合には、即座に国会での審議もなく首相の権限で柔軟に作れるということだ。

 要するに、日本では制度的に「政策」よりも「行政組織の防衛」が重要視されることになり、「縦割り行政」の弊害が起きやすい。一方、英国では「政策」のために行政組織を柔軟に改編することができるので、「縦割り行政」は起きにくいのである。