原料は自社系列農場産、農薬は農園に置かず本社で一括管理、日本以上に厳格な安全管理が行なわれている工場で生産する。
今年10月上旬に取材した中国の「煙台北海食品」の生産方式は、中国製冷凍毒入りギョーザ事件に見舞われた国内大手冷凍食品メーカーにとって、事件後の“業界標準”ともいうべきものだった。
帽子、マスク、衛生服の完全装備に、手を3回洗い、エアシャワーをくぐり、さらに従業員によって粘着テープのローラーで全身をなで回される管理体制は半導体工場を凌ぐレベルだ。
生産ラインにはくまなく監視カメラが設置され、死角はいっさい存在しない。これは、毒入りギョーザ事件以降、地元の山東省政府が食品輸出工場に設置を義務づけたためで、監視はさらに強化された。
そんな“モデル工場”ともいうべき煙台北海食品の冷凍インゲンから、最大で基準値の約3万5000倍の農薬が検出されたのだから、冷凍食品生産の多くを中国に頼っている国内大手メーカーのショックは計り知れない。
ちなみに、煙台北海食品は冷凍食品最大手のニチレイが出資する、台湾系食品メーカー。中国内での自社直営農場による安全性をセールスポイントに、日本メーカーとの取引も多い。
山東省にはニチレイ以外にも、マルハニチロホールディングスと日本水産が、隣接する江蘇省には味の素が自社冷凍食品工場を持っており、山東省周辺は国内大手4社の一大生産拠点だ。
むろん、現時点で今回の農薬混入が中国国内で行なわれたと断定されたわけではないが、ギョーザ事件同様に捜査は難航するだろう。
1月の毒入りギョーザ事件で大手各社は冷凍食品の売り上げが半減するなど、大打撃を受けた。夏以降、ようやく前年並みまでの回復の兆しが出ていたところへ、牛乳へのメラミン混入、毒インゲン事件と、再び中国産食品離れを引き起こす事件が相次いだ。
冷凍食品が最も売れる年末年始商戦で冷凍食品、とりわけ中国製商品が売り場から弾かれるのは確実で、大手各社の「年内にギョーザ事件前のレベルまでの市場回復」という希望は砕け散ってしまった。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)