東京都が複式簿記を取り入れたのは、
20年程前にすぎない
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。
林教授 当時、北イタリアの商人たちは、銀行や個人からお金を調達して中東やアジアとの貿易を盛んに行っていた。取引価格は、ブタ一匹が3フロリン、乗馬用のよい馬が20フロリン、女奴隷が60フロリンだったそうだ。今のお金にしたらどのくらいかは知らんがね。
カノン 人身売買もあったのですね。でも、なぜ複式簿記が発明されたのですか?
林教授 第三者からお金を預かり、そのお金で貿易を行ったからだ。
カノン 貿易をするには、お金が必要なんですね。
林教授 その通り。莫大なお金が必要だった。だが信用の置けない相手には、誰もお金を貸さない。
カノン 確かに、お金の収支が曖昧では貸したくありませんよね。
林教授 銀行や投資家から集めたお金を、どのように運用して、いくら儲けたかを証明できることが、商売人には求められたんだ。700年経った今でも、それは同じだけどね。
カノン そのお金の収支を記録するために、複式簿記が発明されたのですか。
林教授 それが違うんだな。お金の収支だけなら単式簿記(取引を現金だけで記録・集計する記帳法)でも可能だ。
カノン 単式簿記って?
林教授 家計簿だね。他に、国や自治体もお金の収支だけを記帳5していた。
カノン 家計簿だって、お金の使い道は分かりますよね。
林教授 たかだか20年前のことだが、東京都も単式簿記で決算をしていたんだ。つまり、現金の収支しか管理していなかったということだ。
カノン それがダメなんですか。
林教授 1997年にオープンした有楽町にある東京国際フォーラムの建設コストはなんと1600億円だった。しかし、当時の帳簿にはその資産は載っていないんだよ。
カノン ホントですか!? 信じられません。
林教授 単式簿記だからだよ。この事実を初めて問題にしたのが当時の石原慎太郎都知事だった。公認会計士の協力を得て、東京都は複式簿記を取り入れた。その結果、平成10年度の決算書に東京国際フォーラムの建物が1600億円として計上されるようになったんだ。