日本の新リーダーの目玉政策
地銀再編と携帯電話料金の値下げ
2020年という世界史に刻まれる(であろう)年に、日本は菅首相という新しいリーダーを8年ぶりに得た。発足直後の菅内閣は、菅首相が官房長官として馴染みがあったこともあり、新鮮味のないキャスティングだなと(失礼ながら)思ったものの、その後の菅首相の働きぶりをみると、スムーズな政権移行や新機軸打ち出しなど、手堅くも前向きなムードを感じる。
安部前首相は、首相退任後のインタビューで「内閣というのは発足直後が最も勢いがある」と述べ、菅新政権への期待を表明していたが、新型コロナ対策に忙殺されて守勢に回りがちだった安倍政権末期と比べると、菅政権は攻めの取り組みが目立っている。菅内閣への支持率は74%と、発足直後では小泉内閣、鳩山内閣に次いで3位であり、株式相場も好意的に受け止めているなど、国民の期待も高い。
菅首相は、政治家一家という出自がなく、地方議会からの叩き上げのキャリアということもさることながら、民間人と積極的に交流して「現場の声」を拾い上げようとしている。筆者も菅氏の姿勢に大いに期待している。
その菅氏が総裁選に出馬表明した段階で飛び出した「目玉政策」が、地銀再編と携帯電話料金の引き下げである。当然、それぞれの業界はびっくりしたはずで、ほどなくして金融庁長官と地銀協会長は、菅氏とそれぞれ面談している。
さらに菅氏は、地銀再編の仕掛け人であるSBIホールディングスの北尾吉孝CEOとも面談し、地銀再編に関する意見交換をしたとみられる。小泉政権時代の竹中平蔵総務大臣を支えたのが、当時の菅副大臣であり、その竹中さんは現在、SBIホールディングスの社外役員を務めていることもあって、両者の関係は深いようである。
地銀再編も携帯電話の値下げも「言うは易く、実行は難たし」だが、菅氏は運がいい。携帯料金については、タイミングよくNTTによるNTTドコモのTOBというニュースが飛びこんできた。地銀再編については、公正取引委員会での長期間の審議を経て、県内貸し出し比率7割と言われる地元地銀同士の合併によって十八親和銀行が発足した。どちらも菅政権発足とは別の時間軸で動いていたはずだが、リリースのタイミングは菅氏の目玉政策を後押しするかのように見えてしまう。
ここで興味深いのは、携帯電話料金の引き下げについては、大手3社の寡占状態を背景に携帯料金が海外と比べて高止まりし、携帯電話会社の高い利益率を問題視しているのに対し、地銀再編においては逆に「銀行が多すぎる」ことを問題視している点である。
携帯電話料金が他国に比べて高いことや、携帯電話会社の利益率が高い(営業利益率20%)ことには議論の余地はないが、地銀を含めた金融機関は、日本で多すぎるのだろうか。そして銀行を減らせば、日本の金融業界には健全な競争環境が整えられるのだろうか。そもそも、なぜ菅氏は地銀を問題視しているのだろうか。その点には、大いに議論の余地がある。