最低賃金を引き上げると、非効率企業の求人は確実に減るだろうが、効率的な企業の求人も増えないからである。おそらく、効率的な企業でさえも、求人を減らすことになると思われる。

「非効率な中小企業を淘汰すれば、そこで働いている従業員が効率的な中小企業に転職することで、効率的に働けるようになり、日本人の平均的な労働生産性が向上する」という論理であれば、好況時には正しいかもしれないが、不況時には断じて採用されてはならないことである。不況時には、淘汰された中小企業で働いていた労働者は、そのまま失業するだけだからである。

 効率的な企業が多数の求人を出しており、それでも応募が無いような好況期と、効率的な企業さえも求人を出しておらず、街に失業者が溢れているような不況期と、同じ経済政策を採ることがいかに危険なことか、現実を見つめれば容易に分かることである。

 経済学者の中には、失業の問題を気にしない人が多い。頭の中の理論に拘泥して現実を見つめないので、「失業している人は、いつまでも失業していると損なので、しばらく仕事探しをしている間に給料の安い仕事でも妥協して働くようになる。したがって、失業の問題は放置すれば自然と解決する」といったことを平気で口にするのである。学者はそれでも仕方ないが、実務家や政治家はそれでは困るのである。

失業者が多数なら、ゾンビ企業にも存在意義

 景気は生き物である。不況期に倒産が増えて失業が増えると、失業者は収入が得られなくなるため消費を減らす。すると景気が一層悪化して倒産が一層増加するといった悪循環に陥りかねない。

 景気が悪化すれば、企業の設備稼働率が低下するから設備投資意欲が衰え、鉄やセメントや設備機械の需要が減る。仮に企業が設備投資をしたくても、不況で赤字に転落した企業は銀行の融資が受けられないだろう。

 借り手の倒産が増えて、銀行の赤字が膨らんで銀行の自己資本が減れば、自己資本比率規制(銀行は自己資本の12.5倍しか貸し出しできない)によって銀行が貸し渋りを余儀なくされるかもしれない。そうなれば金融危機であり、景気が大きく落ち込み、回復は容易ではなかろう。