コロナ禍で日本がデジタル後進国だという事実が露呈した。その象徴の1つがキャッシュレス決済比率の低さだ。前回の記事、『菅首相に求むキャッシュレス縦割り行政の打破、ガラパゴス問題の根深さ』において、日本でキャッシュレス化が進まない理由を解説した。そこで今回は、住友銀行(現三井住友銀行)やゆうちょ銀行、三井住友カードで得たリテール金融の知識や経験を基に、日本でキャッシュレス社会を実現するための「5つの解決策」を提示したい。(京都大学経済学部特任教授 宇野 輝)
キャッシュレス化を進めるための
「5つの構造改革」を提言
日本でキャッシュレス社会を実現するために重要なことは、キャッシュレス決済比率を高めるロードマップを示すことだ。そのロードマップは、現金や小切手の紙媒体を順次電子化して省力化や効率化を狙いとする「米国方式」と、税徴収の透明性を高めて脱税防止を狙いとする「韓国・中国方式」のいずれかで示すことができる。
わが国のキャッシュレス政策は戦後、米国方式を導入した。ところが、前回記事の『菅首相に求むキャッシュレス縦割り行政の打破、ガラパゴス問題の根深さ』で解説した通り、監督官庁の省益から日本独自の制度への転換を余儀なくされた。そしてその結果、キャッシュレス決済比率は低水準にある。
それでもどうにかグローバル化を図り、米国方式に追随しているが、日本のキャッシュレス決済を巡っては、利便性やビジネスの収益性について問題が多い。このデジタル化時代にふさわしいキャッシュレス化に向けた、革新的な「5つの構造改革」について提言したい。
【提言1】
決済インフラ業界の収益構造を変える
第1の提言は、決済インフラを担う業界の収益構造を変えることだ。私たちが飲食店や小売店でクレジットカードで決済を行う際、店舗(加盟店)側は加盟店手数料をアクワイアラー(加盟店獲得・管理会社)とイシュアー(カード発行会社)に支払う構図になっている。その加盟店手数料の収益配分のウエイトをアクワイアラーからイシュアーに移すべきだと考える。
具体的には、加盟店手数料を平均3%とすれば、その配分をイシュアーに対して固定的に配分することを提案する。加盟店手数料が低下してもイシュアーが固定的な手数料配分を得て、アクワイアラーの手数料配分が低下する仕組みを堅持することである。例えば、次のようなかたちだ。
【加盟店手数料3%の場合】
イシュア―固定料率2%+アクワイアラー変動料率1%
【加盟店手数料を2.5%に引き下げた場合】
イシュア―固定料率2%+アクワイアラー変動料率0.5%
イシュアーは信用リスク(貸し倒れリスク)が高く、一定の収益を確保するためには安定的な手数料収入が必要となる。一方、アクワイアラーには信用リスクはなく、イシュアーのトランザクション量(キャッシュレス決済比率)が増加すれば自動的にアクワイアラーの収入も増えることになる。それが、イシュアーに対して手数料を固定的に配分することを提案する理由だ。