目を閉じる少女見えないことと目をつぶることは全く違う(写真はイメージです) Photo:PIXTA

レビュー

 人が得る情報の8割から9割は視覚に由来するそうだ。であれば、視覚がない状態では、道を歩くのも、時間を確認するのも、本を読むのも容易ではない。健常者が想像する視覚のない世界は、少し怖いものに映る。それゆえに、「障害者」という言葉からは、健常者のサポートや支援が必要となる、立場の弱い人々が連想されてしまう。

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』書影『目の見えない人は世界をどう見ているのか』 伊藤亜紗著 光文社刊 760円+税

 本書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』は、視覚障害を主題としながらも、福祉関係の問題を扱うわけではない。おそらく本書を読む際に必要なのは、福祉の知識や前提ではなく、自分とは違う世界を生きる他者への「好奇の目」だろう。

 見えない世界に生きる人は、見えている人とは異なる方法で世界をとらえ、独自のバランスの中で生活している。見えない世界では、見える世界の「当たり前」はひっくり返る。まるで異国を旅して異なる文化に触れるのと同じように、見えない人々の世界のとらえ方を健常者のそれと比較し、その差異に触れていく。そこでは「障害」はタブーではなく、世界のとらえ方の違いとして、よりフランクに、隣人の様子を尋ねるように扱われていく。見える人と見えない人がお互いの差異を認識することで、新しい社会的価値を生み出そうとするのが本書のねらいである。

 見えない世界への好奇心を頼りに本書を開いてみよう。新たな世界に生きる友人の話に、思わず「そっちの世界も面白い!」と膝をうつこと請け合いである。(菅谷真帆子)