保健ラボ,損保大手3グループの海外ベンチャー投資事情、顧客接点の革新は進むか

立ち上げ2年でベスト100に
MS&ADベンチャーズの快挙

「とにかく、何か探してこい」

 2017年5月、当時の上司からそう指示された佐藤貴史・MS&ADベンチャーズ社長は、「なんて曖昧な指示なんだ」と釈然としないまま、米国カリフォルニア州のシリコンバレーに渡った。

 シリコンバレーといえば、新規事業を立ち上げて一山当てようと野望を抱く起業家と投資家がひしめく、世界屈指のベンチャー企業の集積地だ。

 日本の損害保険業界に長く身を置いてきた佐藤氏にとって、そこは縁もゆかりもない全くの異世界。それはMS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)も同じで、佐藤氏は足掛かりが全くないゼロからのスタートを命じられたのだ。

 しかし佐藤氏にとっては、3~5年後に世界の保険業界に大きなインパクトを与える新時代の保険ビジネスの息吹を、誰よりも早く発見できるかもしれない千載一遇のチャンスでもあった。

サンフランシスコ,シリコンバレーPhoto:PIXTA

 それから3年――。20年9月、佐藤氏とMS&ADベンチャーズCEOのジョン・ソバーグ(Jon Soberg)氏は共に、「GCVパワーリスト賞2020」のトップ100に選出された。これは、国際的に著名なコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)のメディア・調査会社である、Global Corporate Venturing(GCV)が発表する栄誉ある賞だ。

「このリストに載ったということは、シリコンバレーのCVCとして高く評価され、本流のベンチャーキャピタル(VC)の間でも受け入れられている証拠。一般的に、日本企業のCVCは方針がころころ変わるため、シリコンバレーでは信用されていません。MS&ADは最近立ち上がったCVCですが、方針もしっかりしているし、短期間で相当数の投資を敢行していることが高い評価につながったのではないでしょうか」

 30年近くシリコンバレーを拠点に、企業イノベーションを支援するNSVウルフ・キャピタルの校條浩マネージングパートナー(https://diamond.jp/list/series/p-silicon)は、こう評価する。

 無論、シリコンバレーでベンチャー投資を進める損保は、MS&ADだけではない。東京海上HDやSOMPO HDもここ数年、投資を活発化している。

 その背景や方針、投資先などを探っていくと、各グループが損保ビジネスをどのように変化させようとしているのか、また、その背景にある危機感がおぼろげながら浮かび上がってくる。