リストラは「ジョブ型雇用」
移行への地ならしなのか

 ここまでは、悪いニュースと「それはあくまで特殊事情だ」というニュースの2つを分析しましたが、日立金属の一件に関してはもう1つ、さらに別の側面での特殊事情があります。それは西山CEOの出身母体である日立製作所が、経団連の中西宏明会長の出身母体でもあるという点です。

 これは、当連載の過去記事「コロナ禍に乗じた『ジョブ型雇用』礼賛を待ち受ける、修羅の道」で紹介した内容と関係します。それは経団連が、日本の働き方改革に関して、従来のメンバーシップ型雇用から、新たにジョブ型雇用への移行を目指すという情報です。

 さらに言えば、その先陣を切る経団連の中西会長が取締役会長を務める日立製作所は、来年度までに日本を含む世界30万人の従業員の職務経歴書を作成したうえで、2024年度中に完全なジョブ型雇用へと移行することを表明しています。

 その日立製作所の最高幹部だったのが、現日立金属の西山CEOなのです。よってリストラ計画は、従来のメンバーシップ型雇用が前提ではなく、ジョブ型雇用を前提としたものにならざるを得ないであろうことが予測されるわけです。

 実は、もう35年以上前の話ですが、私は就活で茨城県日立市の日立金属の研究所に出向いたことがあります。当時はバブル期の売り手市場だったことから、理系の現役学生だった私は一本釣りで呼ばれて、随分歓迎してもらい、施設内をいろいろと見せていただいた記憶があります。

 そのとき、学生の目から見てとても魅力的だと思ったのは、実は技術ではなく、職場全体がファミリーのように温かかったことでした。これはたぶん、日立金属のというよりも、日立グループ全体の企業文化のようなものだったのだと思います。

 従業員を家族のように扱うのが、昭和の時代に経済を牽引していた日本企業の特徴です。メンバーシップ型雇用とはその名の通り、従業員を組織のメンバーとして扱うことを意味します。そのため、事業構造の変化で需要がなくなった分野の従業員は、別の分野の仕事を見つけてそこに配置する。人に温かい経営であると同時に、人のために仕事を見つけることから、どうしても不要な多角化に繋がりがちです。