――お話をうかがっていると、日本がデジタル化を進めるためには、行政や労働市場など、すでにできあがってしまっているさまざまなシステムを抜本的に改革する必要があると感じます。

長内 その通りだと思います。長い時間をかけて、構造的に変えていかなくてはいけない。フィンテックやキャッシュレスという一部分を切り取って北欧のまねをするだけでは、本当の意味でのデジタル化は実現できません。

 国全体を変えていかなくてはいけない。それには、時間がかかるし国のトップによるリーダーシップも必要です。

 北欧から学べることとしてもう1つ挙げたいのが、民間企業間の連携です。

 日本のキャッシュレス決済が典型例ですが、サービスが乱立しています。一方、北欧ではATMや店舗など金融インフラを共通化して効率化を図っているのです。フィンランドやスウェーデンでは、全銀行のATMがほぼ統一されているほどです。

 また、先ほど登場した個人間送金サービスのSwishはスウェーデン内で営業する銀行6行が共同して立ち上げました。国民の約8割が利用していて、お金を送ることを「Swishする」というように、動詞になっているほど国民の間に浸透しています。

中曽 宏【監修】、山岡浩巳・加藤 出・長内 智【著】『デジタル化する世界と金融―北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓

 こういう話をすると、「北欧は小国だからサービスが集約されるんだ」と考える人がいるかもしれません。しかし、中国を見てみると、日本の10倍以上の人口がいる国でも、キャッシュレス決済サービスはアリペイとウィーチャットペイの2強が市場シェアのほとんどを占めています。経済大国だからサービスやその規格を統一できないということはないんです。

 日本で考えると、LINEがSwishやアリペイ、ウィーチャットペイに一番近い存在ではないでしょうか。高齢者も含めて利用していて、「LINEする」という動詞にもなっています。

 日本企業は、民間企業間の連携が苦手だと指摘されることが多いですが、国内企業が連携して1つのサービスや規格に統一し、圧倒的なシェアを握っていかないと、海外企業という「黒船」がやって来て、市場を持っていかれてしまいます。

 その点、Swishやフィンランド・スウェーデンのATM共通化などによる金融インフラの効率化などは学ぶべき点があると思います。

山岡 北欧のデジタル化政策を学べば、ピュアに「どうすれば効率的か」を考えたときの結論がよく分かる。そういう意味で、この『デジタル化する世界と金融』という本は、デジタル化政策において日本の行くべき方向を示したと考えています。