――精神科を受診した場合、どのような治療を行いますか。

 通常のうつ病の治療が行われますが、授乳をしている場合、母乳への移行があるので薬物療法を行う際にはその期間授乳を停止するなど適切な配慮が必要です。また、環境要因にも配慮した環境調整が重要です。望まない妊娠などのケースでは、特にカウンセリングを含め、薬物療法と精神療法両面からの統合的なアプローチが重要です。

――要因としてよく、夫の育児参加不足や社会的孤立等、周囲のサポート不足があげられますが、サポートの有無はどれくらい発症に関係しているのでしょうか。

 よく言われることですが、サポートする場合としない場合の比較試験は倫理上できないので科学的なデータはありません。しかし出産後の育児はどの母親にとっても、周囲のサポートがないと大変なストレスでしょう。核家族の中で共働きの母の養育の負担は非常に大きくなっていますので、サポートを増やすことは産後のメンタルヘルスにとって大変重要と思います。

――医師や栄養士の中には、鉄分やタンパク質の不足が大きく影響しているという意見もありますが、メンタルヘルスと栄養はどのような関係があると思いますか。

 栄養不足は広く健康を損なうかもしれませんが、特定の栄養不足が精神疾患をもたらすというデータはありません。

 ただ、妊娠出産時には鉄分の消費が増えるので、補充がないと鉄分の不足が生じ、引いては脳内伝達物質の低下をもたらすので情緒不安定の要因になると考えられています。

――予防・改善のために、本人・周囲はどのようなことに注意したらよいでしょう。

 妊娠前の本人と違って、元気がない、食欲がない、興味関心が低下している、判断が上手にできない、睡眠が浅く夢が多い、養育に過度の不安がある、感情的になりやすい、などがあれば早期に産婦人科医や精神科医に相談するのがよいと思います。

――相談するには決心と行動力が必要だと思うのですが、そもそも「うつの人」は、そこまでの決断力や行動力を持ちうるものなのでしょうか。

 そうですね。うつ病では、思考制止、精神運動制止という症状があって、思考も行動も先に進みません。家族や周囲の援助者の協力がないと受診に至りにくいでしょう。

――しかしながら現実問題として、家族や周囲のサポートが足りていないケースは少なくありません。

 保健所や行政、民間等によるインターネットを介した介入など、アクセスの方法を工夫していく必要は多いと思います。

 産婦人科ではメンタルヘルスケアに留意することが増え、エジンバラ産後うつ病質問票もよく用いられるようになってきたと思います。大学ではハイリスク妊娠の患者さんに、フォローアップする「特定妊婦」のシステムがあります。

 児童福祉法の条文では、「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されているのが特定妊婦です。行政上の用語で、病院では虐待のリスクになるのでカルテ上で情報を各科で共有し、ケースワーカーが必要なら福祉、行政等と連携するものです。

※エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)
イギリスで開発された、産後うつ病のスクリーニング票。(1)「笑うことができたし、物事のおもしろい面もわかった」、(2)「物事を楽しみにして待った」など、10 個の質問から構成されており、妊娠期から出産後1年未満の母親を対象に使われている。