アントグループ
中国フィンテックの巨人・アントが、突如IPO中止に追い込まれた教訓はあまりにも大きい Photo:Barcroft Media/gettyimages

世界最大のIPO劇場
利益を得たのは予想外の投資家

 今から2ヵ月ほど前、中東ドバイから「アント・グループの株に投資したいのだが、なんとかならないか?」という不思議な相談が来た。

 アント・グループ(アント)は、言わずと知れた中国フィンテックの巨人。世界最大のフィンテック実験場である中国で、圧倒的なブランドと顧客数を誇っている。アントは、ドバイからの相談を受けた時点でIPOが間近と言われていた。

 そんな段階で、今さらアントの株を手放す株主がいるのかと訝しく思いながらも、中国のビジネスパートナーに相談したら、「今は幹事証券を通じてIPO時の新規発行株式をどう割り当ててもらうかですら大変なのに、既存株の売買の話など論外だ」との返事が返ってきた。まあ、当然だろう。

 しかし、筆者に相談をしてきた中東の投資家は、どこか別ルートでアント株を手放してくれる投資家を見つけたらしい。いくらの株価で何株買えたかまではわからないが、その買い手は11月5日に予定されていたアントによる市場最大のIPOで、利益を得る目論見だったのだろう。

 ところが、実際に利益を得たのは、IPO前に中東の投資家に譲渡した売り手の方だったようだ。4兆円近い公募増資、上場時の時価総額30兆円を超える空前のIPOは、驚くことにIPO予定日の2日前に中止に追い込まれた。中東の投資家に限らず、目算の狂った機関投資家や個人投資家は、たくさんいるだろう。

 アントの成長を支えてきた幹部社員や従業員も、ストックオプションの行使を前提に立てていた色々な計画が狂ってしまったであろうことも想像に難くない。IPO中止にまつわる関係者の悲喜こもごもが見られると言いたいところだが、実際にこの出来事で喜んでいる人はあまりいないのではないか。いるとしたら、中国の金融監督当局くらいか。