未来は、アマゾンの動きの断片から読み取ることができる――そんな画期的な未来予測本が誕生した。アップルやグーグルをブランド評価で上回り、文字通り世界一のテクノロジー企業となったアマゾン。同社は巨大だというばかりではない。同様の大企業では類をみない年平均25%もの成長を続けていることは驚くべき事実で、このことは常に新しい分野に進出していることを意味している。そして、アマゾンが新たに進出した分野では、ライバル企業はその脅威に対抗すべく、アマゾンのビジネスモデルを研究し、自らのビジネスに取り入れている―ーさまざまな業界がまさに「アマゾン化」しているのである。『アマゾン化する未来:ベゾノミクスが世界を埋め尽くす』(ダイヤモンド社刊)は、フォーチュン誌のトップ・ジャーナリストがアマゾン内外を徹底取材して、コロナ禍でもさらなる大きな成長を遂げたアマゾンの秘められた内実に迫り、アマゾンのライバル企業がどのように対抗しようとしているかを探りながら、未来の世界を見事に描き出している。本記事では、同書から特別にそのエッセンスを抜粋していく。(小林啓倫 訳)

ドローンPhoto: Adobe Stock

配送ドローン、自動配送車が行きかう未来を予測する

 ドローンが頻繁に空を飛ぶようになれば、アマゾンは地域社会から大きな反発を招くことになるだろう。プライバシーを心配する人もいる。ドローンのカメラは人を監視するために使われるのではないか?というわけだ。ドローンメーカーによると、ドローンのカメラは解像度が低く、ナビゲーションを補助してドローンの性能を向上させるためだけに使用されるという。今はそうかもしれないが、カメラの性能がこれ以上良くならないという保証はない。

 最大の懸念は、騒音だ。NASAが2017年に行った調査では、ドローンが飛行する際に立てる甲高い音は、住宅地の道路で発生する交通騒音よりも、不快感を与えることが判明した。アルファベットの傘下でドローン配送を手掛ける企業ウィングが、オーストラリアのキャンベラ郊外にあるボニーソンにおいてドローン配送を開始したとき(ホットコーヒーと温かい食品を3分以内に顧客に届ける、というものだった)、この騒音が問題となった。

 地元住民で、ドローンに抗議する団体、BAD(ボニーソン・アゲインスト・ドローン)のメンバーであるジェーン・ギレスピーは、ドローンの大きく甲高い音は「F1のレーシングカー」のようだと言う。この団体は地元政府に対し、ドローン配送を減らすよう請願書を提出した。ギレスピーらBADのメンバーが怒るのも無理はない。それはひどい騒音を立てるのだ。しかし、キャンベラ州政府は2019年初め、多くの住民から騒音に対する苦情があったにもかかわらず、ドローン配送を正式に許可した。

 ドローン支持者は、人々がドローンの騒音に慣れていないだけだと主張しているが、それは何の慰めにもならない。人々をいらだたせるドローンの大群が、多くの郊外や地方部の静寂を打ち砕く、というディストピア的な未来を想像するのは難しくないだろう。米国内でドローンの騒音による被害に遭っている人々は、FAAに期待しないほうがよい。FAAは空の利用を規制すると同時に、促進する。いったん商業用ドローンが許可されれば(その可能性が高い)、後戻りはできないだろう。

 ドローンであれ、配送用ロボットであれ、通常の自動車サイズの自動配送車であれ、自動配送は人間のドライバーを使うよりも経済的だ。つまり、未来は自動配送車にあり、それが道を行き交うようになるのに慣れる必要があるだろう。

 そしてそれは、人間と機械の間に奇妙な関係性を生み出すかもしれない。ミシガン州アナーバーにおいて、フォードのフュージョン・ハイブリッドの自動運転車を使い、ドミノピザを住宅の玄関までデリバリーするという、パイロット・プログラムが実施された。

 その様子をとらえた映像には、何人かの顧客がピザを受け取った後で、車に向かって「ありがとう」と言う様子が収められている。なぜ、そのような反応をしてしまうのだろうか。もしかしたら、ロボットが人間を支配するようになったときに最初にすることが、過去のログファイルをチェックして、誰がロボットに親切で、誰がそうではなかったかを調べるのではないかと恐れたのかもしれない。

 アマゾンはロボット工学、機械学習、自動配送に関する専門知識を駆使して、消費者が実店舗やオンラインで買い物をしたり、それらを組み合わせて利用したりできる、ハイブリッド型小売業の道を切り開くだろう。それこそ小売業が目指す方向であり、アマゾンはその技術力を駆使して、ゲームのルールを根本的に変えようとしている。

 ハイブリッド型小売業者に変身することで、アマゾンは食料品などの新しい市場で成長を実現するだけでなく、新たな効率性も見出して、より多くの資本を投資にまわせるようになるだろう。マッキンゼーの試算では、アマゾンが自動運転車を活用することで削減できるコストは、100億ドル〔約1兆円〕を超える。

 そうした効率化によって、アマゾンは顧客のために価格を下げたり、より多くの実店舗を設置あるいは買収したりするための資本を手に入れられる。アマゾンが小売チェーンのターゲットを買収するといううわさもある。それが実現すれば、ベゾスのAIフライホイールは、ますます速く回ることになる。

 今のところ、米国でアマゾンのスケールに対抗できるほどの規模と、賢さを持つ企業は1つしかない。ウォルマートだ。