アマゾンを知ることは、未来を知ることだ――著者からのメッセージ

 本書の原題でもある『ベゾノミクス』が私たちの働き方や、生活に与える影響は大きい。アマゾンは創業から2019年までで65万人以上の雇用を創出してきたが、ロボット工学にも長けており、今や自動化の波を解き放とうとしている。それをほかの企業までがまねをしたら、労働市場は混乱し、政府はベーシックインカム(UBI:最低限の所得保障)を真剣に検討する必要に迫られるだろう。

 本書の執筆中、多くの友人や同僚から、アマゾンは善なのか、悪なのかと聞かれた。これは妥当な問いだが、複雑な問いでもある。そして、複雑な問いに単純な答えは存在しない。

 私の願いは、本書の読者がこの複雑さを知り、アマゾンがビジネスを支援したり、攻撃したりしている方法を理解して、ベゾノミクスの時代を生き抜く術を身につけ、さらに必要があれば、そのような巨大テクノロジー・プラットフォームの力に対抗してくれるようになることだ。

 最善の行動は、アマゾンをよく観察して、彼らがどのように未来を形づくるかを理解することだ。重要なのは、私たちが好むと好まざるとにかかわらず、ベゾノミクスは世界経済において、ますます大きなシェアを占め続けるということである。私のささやかな望みは、資本主義を改革しようとしている人たちがアマゾンについて知ることで、21世紀にビジネスがどこへ向かっているのか、ベゾノミクスがどのように重要な転換点をもたらすのか、そしてそれがどのように社会を揺るがすのかを、より良く理解するようになることだ。

 本書は、ビジネスリーダーに向けて、ベゾスがどのように彼のビジネスモデルを構築したか、なぜこれほどうまく機能するのか、そしてこの巨大企業に対抗するために何ができるのかを、より深く探求する。それ以外の方々には、ジェフ・ベゾスの世界を知ることが、笑顔がついた茶色の箱が玄関先に届くたびに、私たちの人生の未来に本当は何が起きようとしているのかを理解するのに役立つよう願っている。(ブライアン・デュメイン)

なぜ世界は「アマゾン化」する?――訳者からのメッセージ

 著者のブライアン・デュメインはジャーナリストとして、フォーチュン誌を中心にビジネスやテクノロジーの分野で数々の記事を執筆してきた人物であり、本書も大勢のアマゾン関係者や元関係者への取材に基づいて書き上げられている。アマゾン関係者・元関係者が執筆した「アマゾン本」は、えてして称賛もしくは批判の、どちらか一方の視点に偏りがちだが、本書はその両方の声をバランスよく取り入れた一冊となっている。

 原題にもなっている「ベゾノミクス」とは、レーガノミクスやアベノミクスのように、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスの名前に「経済学(エコノミクス)」を意味する「ミクス」を付けた造語だ。ベゾスは政治家ではないが、アマゾンという卓越した企業の経営を通じて、新しい時代の経済秩序とでも呼べるようなビジネスのあり方を確立した―それこそが「ベゾノミクス」というわけである。

 さらにデュメインは、ベゾノミクスがその発明者であるベゾスの手を離れ、世界各国で有力な企業が採用するようになっていると指摘する。つまり、世界が「アマゾン化」しつつあるのである。したがって、新たな領域に進出して主導的な立場をとろうとする企業は、ベゾノミクスを積極的に取り入れるべきだし、さもなければ、ベゾノミクスを取り入れた企業に真正面からぶつからない方法を模索すべきだと彼は訴えている。

 実際に世界は、本書の主張どおりになりつつある。デュメインが日本版まえがきで触れているように、アマゾンは新型コロナウイルスとの共存を求められる「ウィズコロナ」の世界において、一人勝ちとも言える成功を収めようとしている。

 例えば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、そしてアマゾンという4大IT企業の頭文字を並べたもので、IT業界のみならず全世界の政治経済に影響を及ぼしていると見なされている)の一角であるグーグルは、2020年4月、新型コロナウイルス流行による経済の落ち込みを受けて、マーケティング予算の50%削減を含む経営計画の大幅な見直し、さらには採用の抑制まで行うと発表した。

 一方でアマゾンは、日本版まえがきでも触れられているように、「数週間で17万5000人の従業員を追加採用」している。また7月末に発表された、2020年度第2四半期の決算報告では、四半期利益が52億ドル〔約5500億円〕に達したことが発表された。これはアマゾンの26年の歴史において、過去最大となる額だ。この快進撃には、イーロン・マスクのような有力経営者からも、懸念の声が上がるほどである。

 本書で描かれているような、アマゾンの「既存事業の拡充、新規事業への進出、政府や社会との軋轢」という特徴が、日本においても再現されている。その意味で本書は、日本の読者にとって大いに参考になるはずだ。ウィズコロナの世界で新たなビジネスを築く際の礎として、本書が活用されることを祈っている。

ジム・コリンズ推薦

アマゾンを切り口に描き出される驚愕の未来

ジェフ・ベゾスが発明したビジネスモデル(ベゾノミクス)はデジタル技術とともに拡散する。競争のルールをハッキングして生き残れ!

「〇〇業界のアマゾン」に埋め尽くされる世界を予言する書!

コロナ禍の後もアマゾンの独り勝ちが続き、もはやその分野は小売り、家電、クラウド、金融、ヘルスケア、メディア、広告など際限がありません。アマゾンの脅威から逃れられる業種はいまや皆無で、しかもアマゾンが見向きもしないような業界では「●●業界のアマゾン」を目指すミニ・アマゾンたちがしのぎを削っています。もはやベゾノミクスを駆使するのはアマゾンだけではないのです。

世界がベゾノミクスに埋め尽くされる前に、私たちは対処法を学ばねばならない!

アマゾンは最初の企業にすぎない

本書の主な内容

アマゾン化する未来『アマゾン化する未来――ベゾノミクスが世界を埋め尽くす』
ブライアン・デュメイン 著
小林啓倫 訳
定価(本体1,800円+税)
ダイヤモンド社刊

日本版への序文 コロナ禍を通じ、アマゾン化はいっそう加速した
序章 世界はアマゾン化している:「〇〇業界のアマゾン」があらゆる領域に広がりはじめた
第1章 ベゾノミクスとは何か:それが適用されると、ビジネスのルールが劇的に変わる
第2章 ベゾノミクスを生み出した個人的な哲学:矛盾だらけに見える世界一裕福な男
第3章 ベゾスとアマゾンのイノベーションの作法:我らは神を信ずる、他の者はデータを示せ
第4章 長期的視点しかいらない:1万年後のための計画をいま実行する
第5章 AIフライホイールの発明:弾み車を加速させるために働け
第6章 アマゾン・プライムがもたらした未来:デジタル・ライフスタイルを究極に進めるとどうなるか
第7章 アレクサがいる日常:音声認識がアマゾンの世界に新規顧客を連れてくる
第8章 暗闇に稼働する倉庫の進展:ロボットによる自動化がもたらす雇用の混乱
第9章 悪魔と踊る覚悟:中小小売業者がさらされるアマゾンでの過酷な競争
第10章 自動配送のラスト・ワンマイル革命:自動運転バンとドローンが導くバウンダリーレス店舗
第11章 世界最大の「スーパーvs.オンライン小売り」:直接対決が始まった
第12章 対アマゾン巧者の闘い方:アマゾンの裏をかくビジネスモデルを構築せよ
第13章 あなたの利益はベゾスのチャンス:アマゾンは次にどの業界を狙うのか
第14章 アマゾンの未来とベーシックインカム:強烈な批判への反応
第15章 GAFAを解体せよ:独占禁止法はふたたび隆盛する
終章 問題がある未来でも、もはや現実:アマゾンが失敗しても弾み車は止まらない