過去の成功体験を捨てることが、イノベーションにつながる

いかにして「企業の無形価値」を高めればいいのか 原田泳幸(はらだ・えいこう)
長崎県佐世保市出身。
1972年、東海大学工学部卒業後、日本ナショナル金銭登録機(現・日本NCR)入社。横河・ヒューレット・パッカード、シュルンベルジェグループを経て、1990年よりアップルコンピュータ。米国勤務を経て、1997年より同社代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ副社長に就任。2004年より日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEO、2014年~2016年はベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長、2013年~2019年はソニー社外取締役と、20年以上にわたって社長・会長を歴任。現在は複数社の顧問や経営者育成事業を行いながら、2019年12月よりアジアンカフェ「ゴンチャ(Gong cha)」を運営するゴンチャジャパンの代表取締役会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)を務める。

山下:マクドナルドの「100円マック」も、原田さんのアイデアでしたよね。

原田:そうです。QSCで売上を回復させ、「100円マック」で客数を上げ、「えびフィレオ」で客単価を上げ、24時間営業で業績を伸ばすことができました。では、その上さらに客数を上げるには、どうしたらいいか……。

課題は、ディスカウントせずに、来店の動機づけを広げることでした。

当時、ランチタイムの売上が全体の7割以上で、経営効率がとても悪かったんです。朝の時間や、ランチのあとのスナックタイムの客数を上げるために目をつけたのが、「コーヒー」です。コーヒーは、接触頻度が高いですからね。

ですが、問題がありました。「マックのコーヒーはまずくて有名」だったことです(笑)。それを払拭するためにどうしたかというと、1年間、コーヒーの販売を停止しました。什器(じゅうき)もすべて廃棄しました。

販売休止の間に、お客様の期待値を超える100円コーヒーを開発して、それが功を奏したわけです。

山下:「1年間停止する」とか、「機材を全部捨てる」とか、そんな思い切ったこと、普通の経営者にはできないと思います。

原田:以前の経営者ができなかったのは、過去の知識と経験が多すぎたからです。

一方で私は業界の実情を知らなかったので、「あれをしたら、こんなことが起こる」、「あれをしたら、こんなリスクがある」とは考えませんでした。「商品がおいしければ、絶対に成功する」と信じていただけです。

われわれ経営者は、過去の経験を捨てて「明日のベスト」を考えなければいけません。新しいアイデアから新たな顧客価値を生み出すことこそ、真のイノベーションだと思います。

いかにして「企業の無形価値」を高めればいいのか

(次回に続く)