今回の米国大統領選挙では、トランプ大統領が「選挙不正」を訴えるなど混乱が続き、「自由民主主義の凋落」と諸外国からも批判されている。しかし、今の米国の姿こそ、自由民主主義国の真骨頂である。また、筆者は「分断」は起こっていないと考える。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
混乱の米国、自由民主主義の凋落と批判されるが…
複数の米メディアが、米大統領選全50州と首都ワシントンの勝者が判明したと報じた。全米538人の選挙人の過半数270人以上を争う大統領選で、ジョー・バイデン氏が獲得したのは306人、ドナルド・トランプ大統領は232人となった(11月13日現在)。バイデン氏の勝利が確実となった。
しかし、トランプ大統領は大統領選の結果を認めようとしない。郵便投票を巡る不正を訴えて、法廷闘争を進める考えを強調している。だが、各激戦州で起こした訴訟は、「証拠がない」として次々と却下された。トランプ大統領の訴えに世論の支持は広がらない。共和党内からも大きな反発が出ている。
しかし、トランプ大統領はそれでも諦めようとしない。大統領の行動は、大統領選で投票した有権者の票を無効化しようとするもので、米国の民主主義は深刻な危機に陥ったとする論調があふれている(Financial Times “Donald Trump’s dangerous election reversal game” )。
また、急激な経済発展・軍事力拡大に自信を持ち、権威主義的な政治体制を、民主主義に代わる「世界の政治体制のモデル」だと考えている中国や(本連載第249回・p4)、「自由民主主義体制は時代遅れ」と批判してきたロシアは(第220回・p6)、ここぞとばかり米国の混乱と自由民主主義の凋落を訴えている。
だが、筆者はそれが正しいとは思わない。一見、大混乱に見える今回の米大統領選の状況からわかることは、実は米国が徹頭徹尾、自由民主主義国だということだということだからだ。