「説明深度の錯覚」を回避する

 私はリチャード・ファインマン〔天才物理学者、ノーベル物理学賞受賞者〕についての文章を初めて読んだとき、こうしたエピソードを定式化して、具体的な手法として自分の学習に役立てたくなった。

 その結果として生まれたのが、私が「ファインマン・テクニック」と呼ぶもので、私はこれをMITチャレンジ〔著者による入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスターするプロジェクト〕において幅広く応用した。

 このテクニックを使う目的は、学習しているテーマに関する直感を身につけることだ。そのテーマをまったく理解していない場合や、少しは理解しているものの、その知識を直感へと変えたい場合に使うことができる。内容は非常に簡単だ。

 1.理解したい概念や問題を、紙の一番上に書く。

 2.その下の余白を使って、その概念・問題を他の人に教えるかのように説明する。

 a.説明するのが概念の場合、それを聞いたことのない人にどのように伝えるかを考えてみる。
 b.問題の場合、それをどうやって解くかを説明し(ここが重要な点だが)なぜその解法が自分から見て筋が通っていると思うかを説明する。

 3.行き詰まったとき、つまり自分が明確な答えを書けるほど理解していなかった場合には、教科書やノート、教師、教材に戻って答えを見つける。

 最も重要なのは、この手法は説明深度の錯覚を回避するためのものという点だ。

 私たちの「理解」の多くは明確に表現されることがないため、本当は理解していなくても、理解していると簡単に錯覚してしまう。

 ファインマン・テクニックでは、詳細まで理解したいと思っている概念をはっきりと説明しなければならないため、この落とし穴を避けることができる。

 自転車の絵を描いてみるだけで、その基本的な構造がどうなっているかを自分が知っているかどうかわかるように、このテクニックを使えば、自分があるテーマについて本当はどこまで理解しているのかすぐに把握できる。

 苦労して説明してみることで、自分の理解のどこにギャップがあるのかが明らかにすることができるだろう。

(本原稿は、スコット・H・ヤング著『ULTRA LEARNING 超・自習法』〈小林啓倫訳〉からの抜粋です)