こうした病院における「免疫」は、未曽有のコロナ禍に対してはどのように機能したのだろうか。主として第一波を迎えた2020年2月~5月までの約4カ月間について振り返った長尾氏の手記「COVID-19と患者安全」(日本医師会COVID-19有識者会議に寄稿)を参考に掘り下げてみたい。

「感染」は「安全」の兄
連携・分業体制の真価が問われている

「新型コロナウイルス対応における患者安全部門のミッションは、病院全体の有事対応を支援しつつ、同時にそれらを俯瞰(ふかん)し、医療の質を保ちながら患者の安全確保に全力を尽くすというものである」と長尾氏は述べている。

 感染第一波襲来に際して、安全部門が果たした役割は感染制御部門のサポートであり、長尾氏はスタッフに再三「非常事態といえ、患者安全を疎かにしてよいものではない」「コロナ危機に注意が削がれ、医療ミスを多発させては私たちの存在意義はない」と伝えたという。

 要するに、日本中がパンデミックに動揺している非常時こそ、自分たちの役割である「患者の安全確保」の使命を見失ってはならないというわけだ。

 またこの間、新型コロナウイルスについては、陽性の重症患者を6人、疑いの重症患者を38人受け入れ、治療している。最初の疑い例の入院は2月14日、最初の陽性例の入院は2月29日。その後、陽性例のみに絞っても、人工呼吸管理5件(のべ117日)、同ECMO使用1件(のべ19日)、EMICUの平均入室日数34日など、その治療経過は他聞に漏れず過酷なものとなったが、スタッフの献身もあり、幸い全例が快方に向かい、死者は出なかった。治療は主に救急科と、救急・内科系集中治療部が担当した。

 名大病院は中部地方におけるがん診療、小児医療、高度先進医療など、特定機能病院としての機能維持が最重要命題である。従って、当初は重症患者のみを1~3床程度まで受け入れることとし、院内発生、および重篤な基礎疾患を持つかかり付け患者の院外発生を除き、軽症患者の受け入れは行わない方針を立てていた。しかし、行政からの重症患者の受け入れ要請は途切れることなく続き、5月末までに陽性例、疑い例合わせ、44人の重症患者を治療し、結果的には、愛知県(名古屋市含む)で発生した新型コロナウイルス陽性重症患者の4分の1余りを引き受けたことになる。

 これだけの働きができたのは、充実した感染制御体制と集中治療体制があったればこそだろう。

「国民の多くは知る術もないが、日本の医療機関において、感染制御に従事できる医師や看護師・薬剤師・多職種チームがすでに数万人規模で育まれており、20年以上の部門横断的な活動実績を有し、組織内ガバナンスに確実に組み込まれていたことは、本邦が今回のパンデミックの第一波を迎えるにあたり、最も幸いに作用したことの一つであったと考えている」

 と長尾氏も力説する。