「まったく知られていませんが、実は慢性的な肩こりや腰痛などのからだの不調の原因は、手が縮こまって、短くなっていることにあります。
現代人の多くは、手が短くなっています。その短くなった手をすっきり伸ばさない限りからだの不調はなくならないのです」と語るのは、アスリートゴリラ鍼灸接骨院の院長をしている高林孝光さん。
高林さんは、日々多くの患者さんの施術をするなかで、知らない間に手が短くなっている人がほとんどだと気がつきました。
そして手を伸ばす治療法を確立。多くの患者さんだけでなく、種目柄、手の障害が多いバレーボールのジュニアオリンピック東京代表トレーナーに抜擢されたり、車椅子ソフトボール日本代表のチーフトレーナーを任された経験も。
ダイエット、自律神経失調症など心と体の悩みの相談件数は5万件を超えています。
本連載では、高林さんの新著『1日7秒手を伸ばしなさい』に紹介されている、肩こりや腰痛といった慢性的なからだの不調を治す方法を特別に抜粋し、ご紹介していきます。
(構成・井上健二 イラスト・山口正児)
マッサージや指圧が届かないインナーマッスルにアプローチする貴重な方法が、手を伸ばすこと
なぜ手を伸ばせば、肩こりや腰痛などの悩みがラクになるのでしょうか。
その理由をひと言でいうなら、外からはアプローチできない筋肉を伸ばせるからです。
慢性的な悩みの多くは、突き詰めると筋肉にあります。
骨は伸びたり縮んだりしませんが、筋肉は伸びたり縮んだりできます。筋肉が緊張して縮んだままになり、血行が悪くなるのが、多くの凝りや痛みの根本的な原因。
手を伸ばすと、緊張して縮んだままになっている筋肉が伸び、血行が良くなり、凝りや痛みが軽くなるのです。
ことに大事なのは、からだの深いところで全身にネットワークを広げているインナーマッスル。日本語では「深層筋」と呼ばれます。
肩こりの人が凝っている筋肉に、僧帽筋(そうぼうきん)があります。この筋肉は、首すじから両肩、肩甲骨を菱形に覆っている筋肉。インナーマッスルより表層にあり、手で触れることができる筋肉です。こうした外側の筋肉をアウターマッスル、日本語では「表層筋」と呼びます。
肩こりだと僧帽筋のマッサージや指圧を受けたりしますが、それだけでは肩こりは良くなりません。なぜなら僧帽筋の下にあるインナーマッスルの凝りが取れないからです。
インナーマッスルは、骨格に近い深部にあり、からだの表面からはアプローチができない筋肉。インナーマッスルには、マッサージも指圧も直接作用しません。
マッサージや指圧が届かないインナーマッスルにアプローチする貴重な方法が、手を伸ばすことなのです。手を伸ばすと、インナーマッスルが付いている骨が引っ張られるため、緊張していたインナーマッスルが伸びて緩み、凝りが取れるようになります。
肩のインナーマッスルのわかりやすい例を挙げましょう。
前述のように、僧帽筋は肩甲骨を覆っています。肩甲骨は逆三角形をした平らな骨で、肩の付け根である肩関節を作っている骨です。実はこの肩甲骨の内側にもインナーマッスルがあります。それは肩甲下筋という筋肉で、肩関節の動きに関わっています。
肩こりがある人は肩甲下筋も凝っています。僧帽筋をいくら緩めても、その下にあるインナーマッスルの肩甲下筋が凝ったままでは、肩こりは良くなりません。
どんなに強くマッサージをしたり、強く指圧したりしても、肩甲骨の内側にある肩甲下筋などのインナーマッスルには届きません。だから、手を伸ばしてインナーマッスルを緩めてあげるべきなのです。
インナーマッスルが重要なのは、肩まわりだけではありません。
腰まわりでも、外(背中側)からはマッサージでも指圧でもアプローチできないインナーマッスルがあります。具体的には、腹横筋(ふくおうきん)、腸腰筋(ちょうようきん)といった筋肉です。
インナーマッスルは全身つながっていますから、手を伸ばすことで腰まわりのインナーマッスルもしっかり伸びてくるので、腰痛の軽減にも結びつくのです。
インナーマッスルだけではなく、からだの表層にあるアウターマッスルも、互いにつながっています。それもまた、手を回すと、肩のような上半身ばかりでなく、腰のような下半身の凝りや痛みが取れやすくなる理由です。
たとえば、からだの背面にある広背筋というアウターマッスルは、腰から腕に向かって延びています。手を伸ばし、緊張して固まっていた広背筋が緩むと、腰まわりで広背筋と連動しているアウターマッスルも緩みやすくなり、腰痛が楽になりやすいのです。