コロナ禍でも学びを止めなかった「早稲アカ」流の取り組みとはスカイツリーや東京タワー、富士山も一望できる新社屋に移転したばかり

新型コロナ禍で休校要請が出た2020年3月にバトンを引き継いだ山本豊社長は、中学受験塾が軒並み苦境に立たされる中、学びの場を提供し続けるため、対面授業に加えてZoomでの授業も始めるなど迅速な対応を行った。森上展安・森上教育研究所代表が、新型コロナ禍に対する早稲田アカデミーの取り組みを聞いた。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

山本豊 早稲田アカデミー代表取締役社長

山本豊(やまもと・ゆたか) 早稲田アカデミー代表取締役社長

1963年長野県生まれ。87年早稲田大学卒。学生時代からアルバイト講師を務めた早稲田アカデミーに入社。91年、入社4年目で最大の生徒数を誇る旗艦校「早稲田校」校長に抜擢される。97年運営部長に就いたことを皮切りに、主として運営畑を歩き、2003年取締役運営部長、16年常務取締役運営本部長、19年専務取締役運営本部長を経て、20年3月より現職。

 

就任早々直面した新型コロナ禍

コロナ禍でも学びを止めなかった「早稲アカ」流の取り組みとは[聞き手]森上展安・森上教育研究所代表

 首都圏3大中学受験塾といえば、SAPIX、日能研と早稲田アカデミーである。早稲アカは高校受験や大学受験でも存在感は大きい。塾業界の上場企業としては、「東進ハイスクール」「四谷大塚」を擁するナガセ、「TOMAS」「伸芽会」「名門会」のリソー教育に次ぐ売り上げ規模を誇る。2020年3月に4代目社長となった山本豊氏は、就任早々、新型コロナ禍の直撃を受けた。

――社長に就任されてからもう半年以上がたちました。

山本 3月1日付で社長になりました。さあ、と思った瞬間に首相から学校の一斉休校の発表があり、経済産業省からも2週間の対面での授業は自粛するよう要請がありました。3月の前半はもう授業ができません。その休講分は振り替えるなどしてなんとかやり繰りしました。

 ところが緊急事態宣言が出て、4月・5月に対面授業は一切できなくなってしまいました。これは腹をくくるしかないなと。

――学習塾は2月、3月がかき入れ時ではないですか。

山本 どこの塾でもそうだったと思いますが、新規の問い合わせ手続きがパタリと止まりました。小学生は1月、2月と出足が早いのですが、新小3生とか全然入ってこなくて、新中1生も来ない。4月の段階で前年同期比▲8%強くらいでしょうか。

 このまま行くと赤字になってしまう。就任早々、創業以来初の赤字かと。元々それ程利益率は高くないので、もう四の五の言っても仕方がないと割り切りました。採算度外視とまでは言いませんが、とにかく目いっぱいやれること、学びの場をなんとか提供することにこだわってやってみようと。

――就任早々、背水の陣を敷いたわけですね。

山本 生徒や保護者の皆さんの声を聞くと、 当然のことながら非常に戸惑い困っておられる。4~5月、特に公立の学校は何もしてくれない。学びの場をそっくり奪われてしまった。お子さんの教育が止まってしまうと生活も乱れ、不安が募っていく。

 そこでわれわれ民間教育企業としては、しっかりと学びの場を提供し、ここぞという時に生徒・保護者の皆さんのニーズに応えることに全力を挙げてみようと。それをいち早く決断できたことが良かったと思います。

――どのようなことから着手されたのでしょうか。

山本 「やるぞ」と思った時に、社員の皆さんも共鳴してくれました。そこで、3つのことに取り組みました。

 創業以来の教育理念「本気でやる子を育てる」を具現化するためには、対面授業が極めて重要になります。ところが、これができなくなってしまった。他の塾ではWebに切り替えて映像を見られる、オンデマンドでいつでも見られるという形で対応されているところが多かったですね。しかし、映像を流しっ放しではわれわれの理念に反する。そこで、Zoomというツールを使って、なんとしてでもきちんと双方向で授業をすることをまず実現してみようと。

 Zoomで一応、双方向は成立しました。とはいえ、インターネットを通じてとなると、われわれが一番伝えたい「熱」、早稲田アカデミーが一番こだわっている「熱」がどうしても減衰してしまいます。それを補うために、双方向もやりつつオンデマンドの映像も突貫で全部作って、その両方をやろうということになりました。