しかし、そんなナイキバッシングが激しくなればなるほど、ナイキ支持を表明するアスリートや団体、さらにファンが増えて、結果としてナイキのブランドイメージが向上した。バッシングされたときは一時的に株価も下落したが、ほどなく持ち直した。アンチもできたが熱烈なファンも増えたので、同社は現在に至るまで順調に成長を続けており、コロナ禍の中でも好調な業績をキープしているのだ。

ナイキが「人種差別」を
日本で訴える本当の狙い

 そんなナイキのアメリカにおける広告戦略の成功について、かの国の専門家はこのように述べている。

「『何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても』というメッセージで明らかだが、『ナイキ』は“Just do it”と大きなリスクを取る勇気を信じている。この姿勢で突き進めば、間違いなく民衆の目にさらされ、確実に敵もつくるだろう。だが、根幹となる顧客の意識を喚起して、本物の支持者も現れるだろう」(WWD Japan 2018年9月8日)

 つまり、ナイキは愛国者に喧嘩を売るというリスクを取ることで、ブランドの哲学に強く共感する本物のシンパ、本物のファンを集めることに成功したというわけである。

 2年前にこういう成功体験をした企業が、日本でも同じく「人種差別」をテーマにしたCMを流した。ならば、同じようなことを狙っていると考えるのが筋ではないか。

「日本には人種差別はない」と信じる人たちが怒り狂って抗議や不買の声を上げれば上げるほど、社会の中で注目を集め、擁護の声を上げる人たちや、この姿勢に共感するファンを増やすことにつながる。

 事実、この動画に対する「低評価」は3,3万人と凄まじいアンチがいるが、一方で「高評価」も5.5万人。逆風が強まれば、一方で手を差し伸べる人も増えていくのだ。

 つまり、アンチ派がナイキを不利な状況に追い込もうとして、「拡散希望!ナイキ不買運動を開始します!」「ナイキのスニーカーはもう一生買いません!」と一生懸命のどを枯らせば枯らすほど、「リスクを取ってでも社会をより良くするメッセージを発し続ける企業」というブランディングのナイスアシストをしているという、なんとも皮肉な状況となっているのだ。

 これが、この動画に対して過激なアクションをしない方がいい、と忠告している理由である。