NTTに提携依頼が殺到し、空前絶後の「モテ期」が到来している。提携相手はトヨタ自動車や三菱商事など日本を代表するリーディングカンパニーばかりだ。NTTは企業連携をてこに世界的IT企業に飛躍するシナリオを描くが、それを実現するハードルは限りなく高い。特集『デジタル貧国の覇者 NTT』(全18回)の#1では、かつて時価総額「世界一」を誇ったNTTが抱える深い悩みに迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文、浅島亮子)
西ドイツ一国を超える過熱ぶり
時価総額「世界一」からの凋落
バブル期真っただ中の1987年、NTTは強い日本経済の象徴的存在だった。同年にNTTは上場を果たしたのだが、公開前の第1次売り出し時には売却株数165万株(売り出し価格は1株119万7000円。1人1株の割り当て)に対して1059万件の申し込みが殺到したという。
同年2月9日の上場日には値がつかず、翌10日についた初値が160万円。それからわずか2カ月後に、最高値の318万円まで高騰した(株価は全て、分割前の当時の株価)。「1株で200万円のもうけ!」という情報が社会を駆け巡り、週刊ダイヤモンドでも「NTT株でベンツを買おう」という趣旨の記事が掲載された。旧公社という“政府系”が売り出す株という絶大な信頼感も手伝って、NTTは個人の株式投資ブームの火付け役になったのだ。
同年に時価総額世界一となったNTTは、一社で西ドイツの時価総額を上回るほどだったというから驚かされる。
そして、右肩上がりで経済成長を遂げていた日本は、紛れもなく米国の仮想敵国だった。
「日米貿易摩擦では半導体や自動車、宇宙だけでなく、NTTも標的になったくらいだ」(澁谷直樹・NTT副社長)と当時を振り返る。通商交渉の場を利用して弱体化が図られるくらい、NTTの存在は脅威だったということだろう。
だが、「帝国」の繁栄は長くは続かなかった。
89年の「週刊ダイヤモンド」11月18日号には、NTTが奈落の底に落ちていく様がリアルに描かれている。「政府の審議会がNTT分割案を示すと株価は150万円から140万円へ」「自民党の三塚政調会長が『分割は時の流れ』と発言し株価は135万円へ」といった具合で、株価は暴落していく。
NTTが国民の期待を裏切ったのは株価だけではなかった。