同じNTTグループといっても、主要企業5社に根付いているカルチャーは全く異なる。例えば、1993年に移動体通信部門が分社して発足したNTTドコモであれば、他のグループ企業にはない自由闊達なカルチャーがあり、独立心が旺盛な企業だ。就任したばかりの井伊基之・ドコモ新社長は、ドコモのカルチャーを動物に例えるならば……、なんと「ゴリラ」なのだという。その真意はどこにあるのか。特集『デジタル貧国の覇者 NTT』(全18回)の#10では、グループ主要企業5社(NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTデータ)の“マル秘生態”をじっくり解説しよう。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
NTTグループ5社長に聞く
「会社のカルチャーを表した動物は?」
日本で電話が生まれたのは1869(明治2)年のこと。東京─横浜間で公衆電信線の架設工事に着手したことが始まりとされている。
NTTグループ内で分散していた海外事業の再編、NTTドコモの子会社化、稼げる研究所への変革――。就任以降、矢継ぎ早に大胆な手を打つ澤田純・NTT社長の改革について「電話150年の歴史が始まって以来のゲームチェンジ」と表現するNTT幹部は少なくない。
1985年の電電公社の民営化、99年の持ち株会社発足の後も、強いNTTの独占を許さないというスタンスの下、再編分割論議は繰り返されてきた。経営の意思とは関係なく、遠心力の経営を進めざるを得なかったNTTにとって、今回のグループ再結集の動き、つまり求心力を高める経営へのシフトはまさしく悲願である。
だが同時に、長らくグループで共有されてきた「グループ企業序列」が崩れる転換点にきており、澤田純・NTT社長による全体最適を目指した「グループ大再編」でグループ主要企業5社には激震が走っている。
グループ主要企業5社には、明確な序列が存在する。固定電話が強かった時代のグループ企業序列が今も根強く残っているのだ。持ち株体制後も本体に残ったNTT東日本、西日本、コミュニケーションズはそれぞれ長男坊、次男坊、三男坊の位置付けで、この“お仲間3社”の序列は高い。一方、政策的に分割され“分社”の憂き目に遭ったドコモとNTTデータの序列は低く、“外様”の扱いだ。
固定電話全盛の時代に、無線のドコモへ“くだった”経営幹部は「左遷された」といわれたし、NTTデータに至っては、グループ内での存在感すら乏しかった。
しかし、である。それから20年を経て状況は一変した。業績は足踏み中とはいえ、グループの稼ぎ頭はドコモである。そしてポスト5G時代をにらんで、澤田社長がグループの中核に据えるのがNTTデータだ。ドコモとNTTデータの業界における地位向上とは裏腹に、NTT東西の本業である音声・光回線ビジネスの未来は暗い。
要するに、歴史的に形成された「グループ企業序列」と「グループ企業の実力値」との間にギャップが生まれてしまった。澤田社長が進めるグループ大再編は、その序列を崩すことになる。
そこで、ダイヤモンド編集部では主要5社長にインタビューを敢行し、「グループ再結集の狙い」と「自社の存在意義」について聞いた。同時に、自社のカルチャーを表した動物について尋ねたところ、各社各様にユニークな答えが返ってきた。
ここからはグループ主要企業5社の“マル秘生態”をつまびらかにしてゆく。トップバッターはドコモだ。12月に就任したばかりの井伊基之社長の回答から紹介していこう。
井伊社長によれば、ドコモのカルチャーは「ゴリラ」なのだという。この回答に対して「それは会社のカルチャーではなく、ご本人のキャラクターなのでは(笑)」(丸岡亨・NTTコミュニケーションズ社長)という突っ込みが入ってしまった(ダイヤモンド編集部注:井伊社長は慶應義塾大学アメリカンフットボール部出身で体格が良い)。
だが、井伊社長は至って真剣である。ゴリラ研究の第一人者である山極壽一氏(前京都大学総長)の大ファンで、山極氏の著書は読破しているそうだ。
井伊社長の“ゴリラ解説”はこうだ。
「ゴリラは平和主義者で、元来、争うのが嫌いなのです。リーダーを頂点とする序列に従う猿とは対照的。猿は一番じゃないと我慢できないから他者を蹴落とすでしょう?でも、ゴリラは気が小さくて神経質だから、ときどきおなかを壊しちゃう」
ドコモとゴリラの共通点については「ドコモには公共性を重んじるDNAがあり、フラッグシップキャリア的なイメージが強い。ここがゴリラと似ているところです。平和主義者であまり敵をつくりたくないから、ライバルと共存してしまうんです。だから、これまで携帯価格も安くなかったでしょう?(笑)でも、組織のコミュニティーのボスとしては、しっかりやる。けんか下手な横綱といったところ」(井伊社長)とのことだ。
だが一方で、平和主義的なドコモを戦闘的な性格に変えるのかとの問いに対しては「戦闘はしない。ドコモは横綱だからボスとしての風格は見せるけど、戦闘の場は国内じゃないです。戦うならば、グローバルで競争しないと」(同)との答えが返ってきた。
ドコモと同様に、他の4社(NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ)の生態も明らかにしていこう。