――今回の朗読では梶さんが青年を、寺島拓篤さんが哲人を演じたお二人の対話篇となっているのですが、収録の際のエピソードがあれば教えください。
梶さん 収録当初は、緊急事態宣言下。人と会うこともなかなか難しいタイミングだったので、『嫌われる勇気』の朗読も、リモートでお互いの台詞をそれぞれが読んで、それを後に編集で組み合わせるという形で作りあげました。
まず青年役の僕が自宅で収録し、それを寺島くんにデータで送って哲人の台詞を収録してもらい、それをまた受け取って再編集しています。一緒に掛け合いでお芝居ができていたら、青年が哲人に食ってかかっていくような臨場感もより生まれていたのかな、とも思うんですけれど…でも、そんな制約がある中でも、「対話形式だからこそ成り立つひとつの朗読作品」ができたのかなと思うと、ある種の達成感は感じています。まだ絶賛編集中ということもあり(注:11月下旬)、自分自身、収録していた時とはまた違う、新しい感覚で本作に触れることができています。完成させるのが楽しみです!
――声優の岡本信彦さんにも『嫌われる勇気』をご紹介くださったと聞きました。
梶さん そうですね(笑)。いろいろな声優仲間がいますけど、本当に人間って一人ひとり違う考え方や価値観を持っていて。岡本くんはすごく仲のいい友達ですけれど、考え方や生き方はまったく違う。でも違うからこそ、お互いすごく面白いなと感じているんです。それぞれにとって想像し得ない行動を起こしたりするので、それが一番面白いですかね(笑)。番組で一緒にロケに行ったり、旅行に行ったり、本当にいろいろなことをしてきましたけど…その一瞬一瞬で、まったく想像だにしていなかったようなことが起きる。僕がものすごく青年に共感してしまったと話を聞いて、彼も本作に興味を持ったようで、「じゃあ、読んでみたい」って。結果、「本当に梶くんだね!人間らしくていいね!」と笑われました。(笑)
いろんな登場人物の人生を、読むことで共有できるし、生きられる
――最後に一つ質問です。『嫌われる勇気』は梶さんにとってどんな本でしょうか。
梶さん 読ませていただき、本当に衝撃を受けた作品です。お芝居にもそうした側面があると思うんですけれど、読書って、いろんな登場人物のいろんな人生を、読むことで共有できる、生きられるものだと思うんですね。その中でも、本当にここまで「自分のことが書かれているんじゃないか」と思ってしまうような作品には、なかなか出会えないんじゃないかと思うんです。もちろん、一人ひとりにそういった出会いはあると思いますし、とくに『嫌われる勇気』では、そう思われる方も多いかとは思いますが、それでも僕にとっては本当に衝撃的な、運命的な出会いでした。
なんかこう、どこか恥ずかしくなりつつも、青年の言っていることが本当によくわかるな、と。アドラーの教え…哲人の話していることって、とてもシンプルなのだけど、それを実践するのはやっぱり難しくて。だからこそ、みんながそうあれたら、もっともっと平和であり、幸せになれるんだろうな、と希望をもらえましたね。
…とは言いつつ、それをなかなか簡単には実現できないというところも含めて、やっぱり人間なんだろうなとも思います(笑)。役者をやっているうえで"青年の気持ちがわかる"という部分もきっと大切。全員が哲人みたくなってしまったら、創作物って面白くなくなるんだろうな、と思いますから。青年のようなパッション…何が正しいのかは別として、自分の中の信念や正義といったようなものを、信じ込んだものを貫き通そうとする姿勢も必要でしょうし、また哲人のような、すべてを自分の中で噛み砕いて、こうあるべきだと教えを説くことも必要だと思うので、あらゆる考え方とその価値観を、これからも大切にしていきたいなと僕自身は思います。