青年のことを自分そのものだと思ってしまったんです。

――『嫌われる勇気』はいま、日本のみならず世界中で、本当にたくさんの方々に読まれています。おもにお子さんやその親御さん向けの朗読からスタートした梶さんのYouTubeチャンネルで、梶さんと同世代の方がメイン読者である『嫌われる勇気』の朗読をやってみようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか。

梶さん 『嫌われる勇気』という本とは、実は今回朗読をさせていただくことになるもうずっと前から、個人的に出会っていたんです。存在は知っていながらも読めてはいなかったタイミングで、本屋さんに平積みされていたのを発見したのが最初の出会いだったと思います。『嫌われる勇気』というタイトルもそうですし、あの印象的なブルーのカバーデザインもすごくインパクトがあって。僕は普段から"自分や、自分と他者について"ということを頭の中でいろいろとこねくり回して考えてしまうタイプなんですが(笑)、これから先、もっともっと自分を見つめ直す機会が必要なんじゃないかと思っていたタイミングで、本作に出会ったんです。

 一度読み出したら、それはもう夢中になって最後まで読んでしまって。物語は、青年と哲人との対話形式で進んでいくわけですけれど…本当にビックリしましたね。自分が見透かされているんじゃないかって(笑)。青年のことを自分そのものだなと思ってしまったんです。自分の中にある、どこにぶつけていいかもわからないエネルギーや、青年が内に抱えているものの厄介な感じも含めて、本当に、最後まで感情移入して読んでしまいました。同時に、内容にとても感銘を受けたんです。

 朗読は、自分一人で読めるものもあれば、登場人物の数によっては、朗読しやすいもの、しにくいものがあるんですけれど…『嫌われる勇気』は「青年」と「哲人」の二人のみで物語が展開していくので、声優仲間である寺島拓篤くんと一緒に完成させるものとして、これ以上ぴったりなものはないんじゃないかなと思って、今回、朗読させていただきました。

――著者をはじめ『嫌われる勇気』の制作チームも早速、朗読を聞かせていただいたのですが、梶さんがもうビックリするほど青年らしかった(笑)。青年がそのまま現実にいるかのような気持ちになりました。

梶さん いやいや、お恥ずかしいですね。(笑)実際にお芝居をさせていただくと…彼だったらこういうスピードで話すんだろうなとか、ここで盛り上がってしまうんだろうなというのが直感でわかってしまうくらい、あらためて青年にはシンパシーを感じてしまいました。(笑)

 青年にここまで共感できてしまうというのは、やっぱり少し恥ずかしいところもあるんですけれど…とくに物語の前半部分では「哲人にもっと言ってやれ!」と、青年を思わず応援してしまうぐらい共感してしまいました。

――たしかに『嫌われる勇気』を読んでいると、「負けるな、青年!哲人に言いくるめられるな!そこをもっとつっこめ!!」と応援したくなるところがたくさんありますよね。

梶さん そうなんですよ(笑)。いまは「僕が本を読んでみて」というお話を一人でしているわけですけれど…本当はこういった内容やテーマの本って、何人かで「自分はこう思う」なんていうことを語り合いながら、「あ、なるほどな。そういう考え方もあるんだな」というのをお互いに受け止め合うのが楽しいんじゃないかなと思うんですよね。なので、今日はちょっと寂しいです(笑)。

 自分の価値観だけで、しかも、青年に共感してしまったスタートからのお話で少し恥ずかしいですけれど…でも、いろいろな人が、いろいろな角度から、自分でも普段気づいていなかったような考え方や価値観を発見する機会になる本だろうな、とあらためて感じましたね。

「いま、自分にだからこそできることは何か?」――人気声優 梶裕貴が朗読動画に込めたその思い

映像としても浮かんでくるようなリアリティ

――青年は絶え間なく、さまざまな疑問を哲人にぶつけていくわけですが、梶さんが「ここの問いかけは本当にそう思う!」といった、とくに共感されたフレーズがありましたらぜひ教えてください。

梶さん いやぁ、もうフレーズというか…そこまで言うか!?と思う台詞はたくさんありましたよね(笑)。声を荒げて、「もはやオカルトじゃないか!」なんて強めの発言をしだしたり、どんどんと興奮してきて、立ち上がって哲人に感情をぶつけてしまったり。そんな青年の姿が、物語の描写からクリアに浮かんできて。『嫌われる勇気』は、哲学や心理学に精通されている著者のお二人が、そのテーマをわかりやすく、噛みくだいて書いてくださっているわけですけれど…その人物描写が、まるで戯曲を書き慣れている方なのかなと思ってしまうぐらいで。まったく別々の人間性を持つ青年と哲人という二人が、目の前でやりとりをしている姿が、見事に映像としても浮かんでくるようなリアリティがありますよね。

 だからこそ声に出して、読んで、お芝居をしてみても、スムーズに感情移入できたんだろうなと思います。その言葉や表現、言い回しのひとつひとつ、どれをとっても印象に残っていますね。『嫌われる勇気』というタイトル自体、ものすごくインパクトが強いわけですけれど…それに反抗して、「自分はそうは思わない。そんなの到底受け入れられません」と言っていた青年が、最後には「幸せになる勇気」や「普通であることの勇気」という、彼が自分一人ではたどり着けなかったであろう思想、考え方に出会うという、その変化こそが、この一冊を通して、やはり一番ドラマチックな部分かなと思います。

 あと"感謝する"ということの大切さにあらためて気付かされるのも、もう一つの大きなテーマかもしれませんね。その「ありがとう」という言葉が最後、青年からも哲人からも出てきて、一人ひとりの「ありがとう」という言葉の強さ、必要性というものをすごく強く感じさせられましたね。