ところが、工場は24時間稼働が始まったばかりですから、まさに戦場のような忙しさ。多忙を極める上司たちも相手にしてくれない。「それはお前の問題だろう? お前が自分の仕事ができていないだけだ」と突き放されてしまいました。しかも、私自身、日常業務だけでも手いっぱい。毎日夜中まで残業しながら、在庫管理の問題まで抱え込んでしまったわけです。

 正直、心が折れそうになりました。「もう辞めたい」とまで思いましたが、当時は国際航空運賃が非常に高額だったので、日本に逃げ帰ることもできません。「なんとかするしかない」。追い詰められた私は、そう腹をくくるほかなかったのです。

「なぜ、うまくいかないのか?」。私なりに懸命に考えました。

 そして、頭ごなしに仕事を否定されて、反発を感じない人間などどこにもいないという当たり前のことに気づきました。そこで、こちらから現場に出向き、一人ひとりと丁寧なコミュニケーションを取り続けました。そして、「もっといい方法で在庫管理をすれば、みんなの仕事もラクになる」と提案。「そのためにはどうすればいいか?」を一緒になって考え、率先して身体を動かし、汗をかきました。

 しばらくは相手にしてもらえませんでしたが、彼らも徐々に「日本から来た生意気な野郎も、やっとわかったか」と態度を軟化。仲間に入れてくれるようになりました。そして、私が思い描いている在庫管理の理想形にも共感を寄せてくれ、それ以降は、うるさく言わなくても彼らが主体的に改革を進めていってくれるようになったのです。

 彼らの姿を見ながら、目から鱗(うろこ)が落ちる思いでした。

 リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。そんなことをしても反発を食らうだけ。それよりも、魅力的なゴールを示して、メンバーの共感を呼ぶことが重要。そして、メンバー一人ひとりの主体性を尊重することで、チームが自然に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。そのためには、相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそが武器になるのだ、と気づいたのです。

世界中でリーダーシップの
基本は変わらない

 あれから四十余年――。

 私は、タイ、中近東、ヨーロッパに駐在するなど、主に海外でキャリアを積んできました。タイヤは国際規格商品ですから、参入障壁など一切ありません。“Cut Throat Business(喉をかき切るビジネス)”といわれるように、世界中のメーカーが“食うか食われるか”の熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げるタフな世界です。そして、“食われる”のは事業規模で劣る者。だから、世界トップシェアを握らなければ生き残れない。この会社の大方針を実現すべく、先兵として私なりに全力を尽くしました。

 そして、2005年にフランスのミシュランを凌いで、ブリヂストンはついに世界トップシェアを奪還。その翌年、私は社長に就任して、世界約14万人の従業員のリーダーとして、会社の舵取りを任されることになりました。入社当時は、日本市場での売上が大半を占めていましたが、この頃には、売上の8割強が海外、従業員の4分の3が外国人というグローバル企業に成長。日本企業としては最も速くグローバル化した企業だったこともあり、社長を拝命して身が引き締まる思いがしたものです。