リバース・イノベーションに、
本当に日本は貢献していたのか

小林 本の中で、中国の超音波診断装置開発では、日本人の技術者が参加したと書かれていましたが、そのような事実はあったのでしょうか。

星野 プリンシパル・エンジニアの肩書で、非常にスキルのある日本人の技術者が参加しました。開発中は、1年のうち半分程度を無錫で過ごしていたようです。その頃、超音波部門は別の担当責任者の管轄で、私は余り関与していなかったのですが、スキルの高い人が海外プロジェクトに参加したので、残されたメンバーはそれなりに大変だったと思います。

小林 中国での超音波診断装置の開発のために、スター級の人材をグローバル・プロジェクトに何年も張り付けるのは、特にGEヘルスケア・ジャパンの経営者サイドには相当の抵抗感があったと思います。GEではなぜそういうことができるのでしょうか。

星野 当社では、その当時からすでに開発組織はグローバルでワンチームとして意思決定する体制になっていました。

 もちろん日本側からすると、優秀な人材を中国に出すことは、痛みを伴う部分もありました。しかし、そこには対立や葛藤を乗り越えて、グローバル組織の一員として成熟していく過程がありました。中国の開発チームが育てば中国に渡せる仕事が生まれ、それによって空いたリソースを使って日本チームはもっと先のことをすればいいと、割り切って考えられるようになったのです。

 最終的に重要なのは、トータルのGEとして良い方向でグローバル・ビジネスをすることです。視野を広げれば、そういう考え方ができます。社内の争いにかまけて、他社との競争に負けてしまったら意味はありません。

小林 臨場感溢れる話がうかがえました。次回は日本国内でのリバース・イノベーションの成果について、お聞きします。


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ISBN 978-4-478-021651

『リバース・イノベーション――新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブル著 渡部典子訳 小林喜一郎解説
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  第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
  第2章 リバース・イノベーションの5つの道
  第3章 マインドセットを転換する
  第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
  第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
  第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
  第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
  第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
  第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
  第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
  第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
  第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
  終章 必要なのは行動すること
  付録 リバース・イノベーションの実践ツール
       ネクスト・プラクティスを求めて