ライバルが軒並み赤字に陥るコロナ禍の中でも営業黒字を確保し、過去数年の業績や株価も堅調ぶりが際立つ回転ずしチェーン、スシロー。競合よりも高い原価率を維持しながらも好調な理由とは?特集『現場で役立つ会計術』(全17回)の#4では、スシローの営業利益と顧客満足度を現場の店舗のKPIに置いた「数字管理の徹底」と、行事や天候で臨機応変に判断する「現場のコストコントロール」に迫る。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
コロナ禍でもライバル社に差をつけて絶好調の訳は
原価率50%を維持する「味重視」にあった
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの外食企業が厳しい経営を迫られている。競合他社が赤字に陥る中、回転ずしチェーン最大手のスシローグローバルホールディングス(GHD)はコロナ禍でも2020年9月期に営業利益120億円を確保。積極出店の効果もあったとはいえ、売上高は過去最高を記録した。業界二強を争うくら寿司と比べても、過去数年の業績や株価の勢いは好対照が際立つ。
水留浩一CEOは、15年2月に同社トップへ就任。経営コンサルティング会社ローランド・ベルガーの日本代表を務めた後、企業再生支援機構で日本航空の再建に貢献したプロ経営者として知られる。そんな水留氏がスシロー社長就任後から行ってきたのが「徹底した数字意識の定着」。さらに、「味重視」を貫くことによる他社との差別化だった。
回転ずしでは、そもそも人件費や家賃などの固定費を吸収するだけの利益を出すために、原価率が非常に重要だ。スシローは利益を確保するために原価率を下げるのではなく、原価率を上げても品質の良い食材をできるだけ使い、多くの顧客に来店してもらい、顧客の回転率を上げることで売上高を引き上げているのである。
平均15~30%前後である飲食業界全体の原価率と比べると、回転ずし業界の平均の原価率は高く、水留氏によるとおおむね46%ほど。それに対し、スシローの原価率はさらに高く、約50%。平均原価率50%ということは、1皿100円だとしたら仕入れ値が平均50円ということである。もちろんこれは平均なので、ウニやマグロなど高級なネタの場合、1皿当たりの原価率はさらに高い。
スシローのコストの構造モデルは至ってシンプル。原価率50%、人件費25%と、すでに75%の費用が決まっているのだ。残りから光熱費や水道代などの販管費を除き、最後に利益が確定するというコスト構造になっている。
「売り上げに対して原価率50%のバランスを保てれば、売り上げが8割になっても損失はそこまで出ません。高い食材費でも廃棄を減らしたり、人件費をしっかりコントロールできたりすれば、利益率は大きく変わらないのです」(水留氏)