ベストセラー会計本『世界一楽しい決算書の読み方』の著者、大手町のランダムウォーカー氏作の会計クイズ!特集『現場で役立つ会計術』(全17回)の最終回は、現金がどのくらい増減したかを表す「キャッシュフロー計算書(CF)」にまつわるクイズを出題。東芝やソフトバンクグループを参考に、キャッシュフローの“6つの型”を学ぼう。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
現金の増減が分かるキャッシュフロー計算書
【1問目】ソフトバンクグループのCFはどっち?
いきなりだが、「財務3表」の一つであるキャッシュフロー計算書にまつわる会計クイズに挑戦してみよう。
決算書を読むメリットは#14で説明したが、会計を理解するための基本中の基本に財務3表がある。財務3表とは、「貸借対照表(BS)」「損益計算書(PL)」「キャッシュフロー計算書(CF)」の三つの活動報告書のこと。これが、その企業の「過去と現在」の状態を表し、正確に企業の実態を把握する“道具”として利用される。
今回はその中の「キャッシュフロー計算書(CF)」にまつわるクイズである。
利益がプラスでも倒産するかもしれない!
キャッシュフロー計算書で分かる「現金」の重要性
キャッシュフロー計算書とは、「その企業の現金・預金がどのくらい増減したのか」を計算する書類のことだ。キャッシュフローの略称として「C/F」と表記することもある。
あなたは、「黒字倒産」という言葉を聞いたことがないだろうか。
例えば売上代金を顧客がクレジットカードで支払った場合。PL上の売り上げ・利益は支払いのタイミングで記載されるが、代金はクレジットカードで支払われているため、企業には現金が後追いで入ってくる。この場合、しばらくの間、売り上げが立っているのに現金の変動はない。
もし入金されるまでの期間に、仕入れ代金の支払いが必要になったとしても、現金がなければ仕入れ代金が払えず、企業は信用を失い倒産に至ってしまう。
つまり、PL上は利益が出ていても、現金が足りなくなってしまえば倒産するということだ。こうした事態を避けるために、現金の残高の動きを明確に把握しておく必要がある。
企業の活動には、大きく分けて「営業活動」「投資活動」「財務活動」の三つがある。キャッシュフローとは、この企業の活動によって得られた「収入」から、外部への「支出」を差し引いて、手元に残る現金を計算するものだ。
上図の棒グラフと矢印のイメージを説明しよう。
まず、左側の棒グラフと右側の棒グラフは、1年間の始まりの時点(期首)と、終わりの時点(期末)における現金の残高を表している。左が期首、右が期末だ。
そして、上向きの矢印は、先述した三つの活動のいずれかによって現金の残高が増えたことを表し、下向きの矢印は残高が減ったことを表す。
ではそれぞれのキャッシュフローを、簡単に解説していこう。
(1)営業活動によるキャッシュフロー
企業の営業活動によって増減した現金の動きのことだ。営業CFは、本業からの現金の収入・支出を表しているので、三つの区分の中でも特に重要。ここがプラスになっているかどうかは、利益が出ているかどうかよりも重視される場合がある。
営業CFがプラスの場合、本業によってしっかりと現金預金が回る状態にあり、順調だといえる。また、プラス分を投資活動や株主への還元に活用できる。
一方、営業CFがマイナスの場合、他の投資活動や財務活動でマイナスを補う必要が出てくる。ただし、永続的に投資活動や財務活動だけで補い続けるのは難しいので、事業自体を早急に改善していなかければならない。
(2)投資活動によるキャッシュフロー
企業の投資活動によって増減した現金の動きが記載される。投資CFは、投資を行って現金を支払ったのであればマイナスに、設備や株を売却して現金を受け取ったのであればプラスになる。
投資CFはマイナスだとまずい、というわけではない。投資CFで見るべきポイントは、営業活動や財務活動によって流入した現金を投資して、事業拡大を目指した動きを取れているかという点だ。投資を行わない企業は、現状維持で終わってしまう。そのため、企業は基本的に投資をする必要があり、逆にいえば、投資CFが大幅にプラスである会社は、事業を縮小しようとしてる場合もある。
その企業の投資先や投資財源がどこなのかに着目すれば、投資CFから経営スタンスを推測できる。
(3)財務活動によるキャッシュフロー
企業の株式や借入金を通して資金調達を行う際の、調達や返済の状況が記載される。資金調達をして現金が増えたらプラス、借入金の返済や自社株買いで現金が減ったらマイナスと、非常にシンプル。例えば、企業が上場すると、一般投資家から数十億円の資金調達ができるので、そのタイミングで財務CFは非常に大きくなる。
6つの型で分かる「企業の状況」
東芝の2016年度CFは「救済型」だった
また、CFは、三つの活動でそれぞれプラスかマイナスの値を取るが、その組み合わせには、主に六つのパターンがある(次ページ図)。「三つの活動を合わせるとどの形になるのか」を考えながら見ていくことで、企業の状況の大枠を把握できるようになる。