40年続く既存のワークマンは、
新業態のために否定すべきだったか?

土屋:1つ内田先生にお聞きしたいのは、WORKMAN Plusが立ち上がった段階で、ワークマンはなくしてしまったほうがよかったのかどうかということです。

内田:先ほどの「アンゾフの成長ベクトル」で見たとおり、御社の強みは、個人向けの作業服という非常に限られた分野を、徹底的に効率的にやることでできた仕組みです。そのマーケットがなくなってしまうのであれば別ですが、そこで確固たる地位を築いている以上、そこを維持するのは戦略として正しいと思います。

土屋:なるほど。

内田:ただ、新業態を考えるときに、どこを変え、どこを変えないかを常に明確にしておくことがポイントです。

たとえばユニクロはGUという新ブランドを出しました。両者は扱っているものが異なり、ユニクロは標準的なアイテム、GUは流行に左右されるファッショナブルなもの。これを同じコンセプトで売るのは無理です。

でも、ワークマンとWORKMAN Plusは扱っている商品が同じである以上、ワークマンのやり方をベースに、マーケティング、出店、ディスプレイ、プロモーションなどを工夫していくのは理にかなっていると思います。

土屋:やはり整合性が大事ですね。我々の戦略ストーリーはとてもシンプルで「しない経営」と「エクセル経営」でほとんど語れてしまう感じがしました。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。