見当たらない
分断修復の特効薬

 世界のマネーフローを見ていると、主要投資家のリスク許容度はかなり粘り強い。昨年11月以降、世界的な感染の再拡大にもかかわらず、トルコ・リラをはじめとするリスクの高い新興国通貨は、対ドルで上昇基調だ。

 注目すべきは、財政支出拡大観測から長期ゾーン以降の米金利上昇が顕著であるにもかかわらず、新興国通貨の為替レートが大きく崩れていないことだ。投資家は先行きを楽観し、リスクテイクの心理は強いといえる。それは当面の間の米国の株価上昇を支え、金融政策は経済格差の拡大に拍車をかける要因の一つとなる恐れがある。

 今後の展開を考えると、今年1月20日に大統領に就任するバイデン氏が米国の分断を癒やし、国を一つにまとめることは容易ではないだろう。

 新型コロナのパンデミック発生によって、世界経済の環境変化のスピードは加速。移動制限が各国の飲食や交通、宿泊などの需要を低下させた。たとえパンデミックが収束したとしても、米国などで雇用の受け皿としての役割を果した飲食などの需要は、コロナ禍以前の水準に戻らない恐れがある。

 それとは対照的に、米国ではGAFAをはじめとするITプラットフォーマーがDXをけん引し、既存産業とIT先端分野の二極分化(「K字」型の景気回復)が鮮明となっている。その結果、生産要素が成長期待の高い分野に偏在し、富裕層が富む一方で、経済的弱者が一段と厳しい状況を迎え、経済と社会の両面で分断が進む恐れがある。

 バイデン氏はこうした状況を是正しなければならないのである。ただし、それには時間を要する。バイデン氏は大手プラットフォーマーによる寡占の是正を目指しているが、短期間で結論が出るとは考えづらい。

トランプ氏が米国と世界に
残した傷は深く大きい

 また、教育や医療の体制を強化し、環境に配慮したインフラ投資によって雇用を創出するにも時間がかかる。民主党が大統領選と上下両院を制する「トリプルブルー」が実現したとはいえ、ある意味では保守派を中心に「トランプ党」としての色彩を帯びた共和党と、民主党内の左派に配慮しながらバイデン氏は利害を調整しなければならない。TPP復帰によって経済面からの対中包囲網を整備するなど、バイデン政権が国際協調に向けた取り組みを進めるのは遅れるだろう。

 富裕層に資産や経済的な力が集中し、弱者が困窮する構図は、米国だけの問題ではない。

 韓国では不動産価格が高騰し、住宅取得や日々の生活のために、債務に依存する家庭が増えている。大手プラットフォーマー不在の欧州やわが国の状況はさらに厳しい。他方で、中国は国家資本主義体制と国際社会での孤立防止への取り組みを強化するはずだ。やや長めの目線で考えると、各国の内向き志向は強まり、国際世論の多極化は一段と鮮明になるだろう。

 このように、社会と経済の分断は米国に限った問題ではなく、世界的な兆候だ。米バイデン政権の取り組みはその状況に大きく影響する。それだけ、トランプ氏が米国と世界の経済、社会に残した傷は深く大きいのである。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)