財政への悪影響を理由に
アダストリアの脱退を拒否

 アダストリアは2017年4月、単一健保を設立するため、KF健保に18年4月までに脱退することを申し出た。ところが、KF健保の一部の理事たちがこれに強硬に反発し、アダストリアの脱退申し出を「否決」してしまう。

 KF健保がアダストリアの脱退に反対する最大の理由は保険料の減少だろう。アダストリアからは年間約30億円もの保険料を徴収している。これが減ってしまうと、KF健保の財政に悪影響が出て、他の加入者の保険料を引き上げざるを得なくなる。

 また、アダストリアの脱退を認めると、ユナイテッドアローズやビームスなど、同様のアパレル小売りが後に続こうとしてしまうため、脱退は断固拒否しなければならない。

 事実、KF健保組合会議事録には次のように書かれている。

<当組合の財政にも影響があり、事業所の都合による身勝手な脱退を認めるべきではない。今回の脱退を認めることで、それが前例となり他社追随の際、拒否することが困難になる。他の保険組合でも同様に問題になっており、当組合が断固拒否する先例となるべき。また、当組合の長い歴史を考えると脱退という前例を作らないようにこだわるべき、という意見がありました>(KF健保組合会議事録より筆者抜粋)

 アダストリアは18年6月と19年6月の2度にわたり脱退を申し出たが、否決され続けている。脱退への反対理由に「KF健保の歴史」が持ち出されるあたり、感情的に反対している節もある。

 だがそもそも、アダストリアが脱退を申し出るに至った原因は、加入者の利便性を考えずに、旧態依然としたサービスを放置し続けたKF健保にある。その結果、脱退者が出るのは必然的だ。他社追随やKF健保の歴史は、加入者にとって全く関係のない話だ。

 KF健保は17年に脱退の申し出を受けてから、健診機関を増やす等の改善もしていないという。要望は受け付けないが、脱退はさせないという、搾取にも似た関係が続いている。