当初は定員15人のほとんどが要支援者だったという。年々要介護認定者が増えてきて、「半数ほどになりました」とのこと。要支援者の参加が減り、世田谷区の「要支援者が過半数を上回っていること」という基準を下回ることもあった。要介護者が事業の対象者となれば補助金が増える。「増えた補助金で年1回のバス旅行を2回に増やせるし活動費の収支が採れる」と加納さん。

「要介護になっても、引き続きここを利用したいと参加者たちは望んでいます。何とかならないでしょうか」と世田谷区と話し合ったという。

 この声をすくい上げたのが世田谷区のスライドとなり、19年9月に開かれた一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会で厚労省の資料として提出された。それが課長会議でも使われた。

 事業者からの同様の要望は横浜市でも受けていた。「要介護になったらもう来ないで、とはなかなか言えません、という事業者からの訴えをよく聞きました」と話すのは地域包括ケア推進課の喜多麻子課長。こうした現場の声を受けて介護保険制度の見直しを検討する社会保障審議会介護保険部会は19年12月27日に、要介護者への利用の「弾力化を行うことが重要である」との考えを示した。

 これに対して公益社団法人「認知症の本人と家族の会」や市民団などが反対運動を展開し始める。「要介護の認定を受けた要支援者を総合事業に留めておくことを可能にする施策」「要介護者の保険給付外しの突破口になる」「介護保険の受給権の侵害につながる」――。認知症の本人と家族の会が9月18日に出した声明文で挙げる反対理由である。

「市民福祉情報ハスカップ」の主宰者、小竹雅子さんも「要介護認定者の訪問介護と通所介護をから削減する序章と読みこめる。給付を受ける権利は守られるべきだ」と話す。

 埼玉県所沢市で介護保険発足時の担当者だった淑徳大学の鏡諭教授は「(介護給付の)受給者はプロの介護サービスを受ける権利があるのに、ボランティアが入る総合事業ではそうはいかない。総合事業は自治体の裁量次第でサービスの質や量に違いが出てしまう」と危惧する。

 厚労省は「要介護者は介護給付を受けながら総合事業のサービスを受けられる。選択肢を広げたのであり、給付削減の意図はない」と反論する。

 そして、10月22日に公布された改正省令では、すべての要介護者を利用者とする案は消えた。なぜ、一変したのか。