飲食店が退去時に費用をかけてまで
わざわざ物件を元の状態に戻す理由

(1)挑戦者:同業の企業

 まず、最初に考えられるのは、同業他社による活用である。しかも大手の「居抜き物件」(それまで店舗にあった什器や機材、厨房機器の設備や内外装が、そのまま残されている状態)であれば、機材はそろっている。看板さえ書き換えれば、それこそ次の日から営業できてしまう。

 今のテナント側からすると、退去に関わる什器や器材の移転運送費、元の状態に戻す工事費等を削減できる。次に入るオーナー側からすると、大型物件であれば初期投資にかかる2000万~3000万円の費用を節約できる。応用がきけば最低限の支出で済むのである。ただしそのためには、什器や機材、厨房機器の設備や内外装の権利を譲渡するための「造作譲渡契約」を結び、その内訳を確認しておく必要がある。

 ところが大手チェーンであれば、必ず「スケルトン」と呼ばれる、当初の「箱もの状態」に戻してしまう。スケルトンとは、建物ができたばかりの内装設備が何もない、柱や梁、床などむき出しの骨組みだけとなる元の状態のことだ。

 残していくものに残存価値があれば、「造作譲渡料」をもらうことさえできるのに、なぜわざわざ元の状態に戻してしまうのか? それには理由がある。

 店舗にあるものすべては、その企業がそれまでに培ってきた「経営ノウハウの塊」というべき秘密の宝庫だからだ。たとえば、テーブルやカウンター、イスの高さや素材。器や機材からは、どんぶり1杯ごとのごはんのグラム量や、その上にかける具材の温度管理もわかる。あえて退店費用をかけてまで元に戻すのは、敵となる相手に手の内を明かさないためなのだ(もちろん都市部の好立地条件であれば、元の状態に戻さないといけない等、契約条件が厳しいケースもあるが)。

 しかも現在は、コロナ禍による未曽有の危機だ。これだけの閉店数であれば、同業他社が新たに投資をしてまで空き店舗に出店することは、現実的には難しいだろう。

不採算店舗を閉鎖し、
来店動機が明確な業態へ急速転換

(2)侵入者:隣接する業界からの企業

 では、隣接する業界がこうした空き店舗を活用するのはどうか?

 異なる業界へと進出したこれまでの事例として、スーパーやコンビニ、通販会社が銀行業へ進出するケースはあったが、コロナ禍においては、ほかの業界が新たに飲食業へ進出することは厳しいであろう。今後、物件の賃貸料が下がるのであれば、空き店舗の一部にコンビニが出店し、飲食店代わりに弁当販売を行うことや、郊外に展開している大型店舗の回転寿司チェーンなどが、都市部に中規模店で進出することはありえる。

 隣接する「業界」というよりも、「グループ企業」が飲食店業種へ進出するケースは大いに考えられるし、実際にそのような動きが加速している。

 例えばすかいらーくグループは、ビュッフェ形式の店舗や、オフィス街やショッピングセンターにある店舗といった、不採算となる店舗を続々と閉店。その一方で、顧客の来店動機が明確な回転ずしなどの業態で、郊外エリアを中心に80店の新たな出店を計画している。グループ全体の中で飲食ブランドの転換を図ることで、雇用の確保にもつなげるつもりだ。

 同様にワタミでは、居酒屋を焼き肉店へ変えるなどして業態転換を行い、新たな需要喚起をはかる方針だ。

 グループ全体の売り上げを少しでも回復すべく、大手飲食チェーンのたゆまぬ模索はこれからも続くだろう。