アメリカは、かつてのグローバル覇権を失い、中国の脅威に晒されている。そんななか成立したバイデン政権は、アメリカをどこに導こうとしているのか? それを探るうえで、注目されるのが、大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に登用されたジェイク・サリバンである。彼は、「経済学」と「地政学」は本来密接な関係にあることを示したうえで、ここ何十年も支配的なイデオロギーであったいわゆる「新自由主義」を克服すべきであると主張している。そこから、何が見えてくるのか?(評論家 中野剛志)
「米国が地政学的に成功するか、失敗するかを決めるのは、経済学である」
ジョー・バイデン政権は、米国をどこへ導こうとしているのか。それを知る上では、政権に起用された人物の思想を探るのが、一つの有効な手段となる。
そうした人物の中で注目すべき一人は、44歳という異例の若さで大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に登用されたジェイク・サリバンである。
そのサリバンであるが、一年前の2020年2月、外交誌『フォーリン・ポリシー』において、ジェニファー・ハリスとともに、「米国は、新しい経済哲学が必要だ」という論考を発表している。ちなみに、ハリスは『他の手段による戦争:ジオ・エコノミクスとステイトクラフト』の共著者であり、国務省に勤務していた人物である。
サリバン大統領補佐官の担当は、国家安全保障問題である。それにもかかわらず、なぜ彼が「新しい経済哲学」を論じたことが重要なのか。
それは、サリバンが、経済政策と安全保障戦略、言わば「富国」と「強兵」とは密接不可分であり、「米国が地政学的に成功するか、失敗するかを決めるのは、経済学である」と主張しているからに他ならない。
そういう思想を持つサリバンをバイデン大統領が抜擢したということは、バイデン政権の経済政策は、安全保障戦略と大いに関係する可能性が高いということを意味する。逆に言えば、バイデン政権の安全保障戦略は、経済的な観点なしには理解できなくなるだろうということだ。