井上 「はい。退職は1カ月前までに書面で申し出て会社の承認を得たときとあります。ただ、現場のことを考えて、早めに上司に相談したのですが……。退職願を渡そうとしても受け取ってもらえず、このままじゃ、もう会社を辞められないんじゃないかと思って。それに、入社するときに『自分の後任者が決まるまでは退職しません、違反したときは損害賠償請求を受けることを認めます』っていう内容の誓約書を書かされているんです」
カタリーナ 「それで相談にきたのね」
井上 「はい。で、最近はやりの退職代行サービスってあるじゃないですか。会社からもし本当に損害賠償請求をされたらどうしようかと心配だし、たまっている年次有給休暇も使いたいから、丸ごと代行業者にお願いしようかと思って」
カタリーナ 「そういうサービスを使うかどうかはあなたの自由よ。ただ、会社との交渉事を頼みたいなら、弁護士資格のあるサービス業者にしないと非弁行為になってしまうから気をつけないとね。でも、そこまでしなくても、辞めることはできるわよ」
井上 「そうでしょうか? これ以上、上司を説得する自信はありません」
カタリーナ 「その必要はないわ。たとえ会社から承諾を得られなくても、民法の規定では、退職を申し出てから原則として14日を過ぎたら、退職できることになっているの」
井上 「本当ですか? でも、そんなことをして損害賠償請求とかされないですか?」
退職で損害賠償請求の可能性はあるか?
カタリーナ 「そもそも労働契約の不履行で違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることは、法律で禁じられているの」
井上 「はぁ」
カタリーナ 「過去の裁判例で、参考になるものがあるわ。後任者への業務引き継ぎが終わるまで退職をせず、違反したら損害賠償請求を認めるといった趣旨の誓約書を書かされている事案で、民法627条1項が強行規定と解されるとして、誓約書の効力を認めていない。つまり、損害賠償請求を受けることなく、申し出から2週間経過すれば退職できるということね」
井上 「そうなんですか」