そもそも、森喜朗氏はもともと失言で有名でした。首相在任中、日本を「天皇を中心としている神の国」と表現して物議を醸した神の国発言をめぐる報道は、当時私は大学生でしたが、今でも鮮明に覚えています。

 他にも「子どもを一人も作らない女性を税金で面倒見るのはおかしい」という発言、自民党京都府連のパーティーでは「大阪はたんつぼ。金もうけだけを考えていて、公共心のない汚い町」など、過去の失言を探せば枚挙にいとまがありません。

 近しい議員たちからの話では、行き過ぎたリップサービス、過剰なファンサービスからくる発言だそうです。しかし、今の時代、マスメディアやインターネットを通じて拡散されることにより、「言葉」だけが無機質に独り歩きしてしまいます。そういう意味では森喜朗氏は、記者たちがその気になれば、いつでも問題発言というネタを見つけやすい人物といえるでしょう。

 今回の問題発言の件で私がまず疑問を抱いたのは「なぜ今のタイミングで報じられたのか?」です。会長職を続けて7年間、森会長が今日まで失言をしないで来られたはずがないのは、彼をよく知る関係者や記者たちも皆知っているはずです。これはオリンピックを中止させたいと思っている勢力が、今のタイミングで森氏をターゲットにしたのではないかと勘繰ってしまうのは私だけでしょうか。

 森氏をずっと会長職に置いておくことは確実にこのような問題が起こることを関係者は理解していたはずであり、その上で会長としての力を評価していたことの裏返しでもあるわけです。もちろん発言の内容は批判されるべきものであり、私の目から見てもこの発言で全てを失っても仕方がないレベルではあるとも思いますが、報道のタイミングなどについては、気味の悪さというか、違和感を覚えてしまいます。

思考停止の大衆心理で
一億総攻撃する病

 そして、またもや始まりましたと思ったのが「一人の人間に対する世の中の集中砲火」です。どこを見ても森氏を擁護するコメントは見つかりません。何なら、普段政治や時事ネタについてコメントをしない人までもが怒りのコメントを出しています。

 繰り返しますが、明らかに森氏の発言は今の世の中には到底受け入れられるものではありません。だからこそ、このことになら自分も声を大にして批判できる、という心理が働いているような気がしてなりません。「女性蔑視」という今のグローバルスタンダードの視点からもジェンダーの視点からもNGであるこの発言だけに注目し、後のことは何も考えずに批判をしまくるということは、思考停止以外の何物でもありません。