よく言われる理由としては、建設業界が子請け、孫請けというピラミッド型の多重請負構造になっているということがある。こういうビジネスモデルの業者が、ガチンコで競争入札をすると熾烈なコスト競争となり、そのしわ寄せが子請け、孫請けの業者に及んでしまう。そうなれば、現場で工事を支える人たちが弱っていく。現場が疲弊すれば納期も遅れるし、横浜市のマンションで起きた杭打ち不正のような、手抜き工事も横行してしまうかもしれない。
こういう公共工事の質低下を避けるためには、業者が互いの足を引っ張り合うのではなく、事前に話し合ってうまく利害を調整した方がいい。つまり結果として、「談合」をした方が建設業界も、国や地方公共団体もハッピー、そしてひいては国民もハッピーなのだ、というロジックである。
オープンに議論しても話が進まない
密室取引のほうがみんなハッピー
さて、このような話を聞くと、怒りでどうにかなってしまう人も少なくないと思うが、これに賛同するかどうかはさておき、ロジックが何かに似ていると思わないだろうか。
そう、森氏の「密室の取引」を擁護する人たちの主張と重なるのだ。
「組織委員会は透明性と公平性を担保するのは当然だ」と建前としては言いながらも、IOCや各国の競技団体、開催都市、自治体など、さまざまな人々の要望や利権が複雑に絡み合っている。それをオープンな形で公平に解決しようとすると、さまざまな小競り合いが起きるし、時間もかかる。結果、そのしわ寄せは、オリンピックに人生を懸けてきたアスリートに及んでしまう。そうなれば、現場でこの大会を支えるボランティアの士気も下がるし、国民の五輪ムードもシラけてしまう。
そういう事態を避けるためには、透明性を高め、公平な議論を延々続けるよりも、閉ざされた世界の中でサクサクと利害調整、利権分配を進めた方がいい。つまり「密室の取引」を進めた方が、結果としてIOCも競技団体も自治体も、そしてアスリートも、みんなハッピーなのだ、というロジックである。
重なるのはそこだけではない。森氏という「政治力と調整能力のあるドン」が参加者の利権の交通整理をするという構図も、談合と瓜二つだ。
聞いたことがある人も多いと思うが、談合には「天の声」と呼ばれる人が登場する。話し合いで入札を調整すると言いながらも、そこは各社ビジネスなので、時には互いに一歩も譲らず、なかなか調整がつかないときもある。そんなときに各社が対立をしないよう、「天の声」から「今回はA社で」という鶴の一声が発せられる。