数々の功績を残したトップリーダーたちは、「ネクストリーダー」に就任した際、何を考え、どう行動していたのか。連載第2回の前編に続き、戦略家・マーケターの森岡毅氏に話を聞く。成績不振のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を持続成長できる組織に変革し、V字回復に導いた「一流のリーダー」として知られる森岡氏。USJ退社後は、丸亀製麺やネスタリゾート神戸などの業績を次々と立て直すなど、常に圧倒的な結果を出し続けるマーケティング精鋭集団「株式会社刀」を率いる。しかし、実は過去に「暗黒のリーダーシップ期」を経験した、と著書『誰もが人を動かせる!あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』で語っている。一体どんな暗黒期を過ごし、いかにそれを脱して一流のリーダーになったのか。

※前編「森岡毅氏がリーダーになるまでの意外な道のり、弱点をいかに克服したか」はこちらから。

「緊張感」で結果を出させる
暗黒のリーダーシップ期

森岡毅
森岡毅(もりおか・つよし)
刀代表取締役 CEO
日本を代表する戦略家・マーケター
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、96年P&G入社。ブランドマネジャーとしてヴィダルサスーンを担当し同ブランドの黄金期を築く。P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍、北米パンテーンのブランドマネジャー、ヘアケアカテゴリー アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表を経て、USJ入社。同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員、マーケティング本部長を務める。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の「森岡メソッド」を導入し、経営危機にあったUSJをわずか数年で劇的に経営再建。2017年、マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立し、「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気に」という大義の下数々のプロジェクトを推進。近刊に『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP社)がある。 Photo by Hiroki Kondo

 前編では、経営者を目指すまでの過程で、私の強みである戦略思考やマーケティング力をいかに成長させ、そしていかに弱みを克服していったのかを話しました。今回はもともと優秀なリーダーとはいい難かった私が、どうやって後天的に「人を動かす」リーダーシップを身に付けていったのか、お話ししたいと思います。

 P&G入社直後に経験した人生最大の挫折をきっかけに、自分の中の人としての「芯棒」が、「個」から「公」に移っていったと話しましたが、20代後半にP&Gでブランドマネジャーになるまでは、まだその境地に至っていませんでした。振り返れば、それまでは「暗黒のリーダーシップ期」にどっぷりつかっていたように思います。

「数学マーケティング」を確立し自信を取り戻していった私は、自ら立てた戦略どおりにチームメンバーを動かすことで、結果が出せるようになっていました。しかし、今考えると、チームで戦っているのに、常に個人戦をしているような感覚だったと白状せねばなりません。らっきょうの皮をむき続けて、最後に残った芯には「自分」と書いてあった。つまり、「自分」が勝つことが頭の中心を支配していて、自分が率いるチームが負けるのは、自分の劣等性を示されるようで我慢ならないからこそ、懸命に戦っていたわけです。

 もっと後になれば、自分を使って周りを勝たせる方がよほど難易度も高く、やりがいがあり、生きている手応えを感じられると分かることになるのですが、当時の私は自分が勝つために常に張り詰めていました。進捗が遅れていたり、必要なことをやっていなかったりするメンバーがいると我慢ならない。どうして遅れているのかと問い詰め、相手が言い訳をすると、矛盾を指摘して、質問を畳み掛けて追い込んで、期待に沿うように相手を動かすべく決して妥協しませんでした。

 やるべきことができていないことに対してももちろんですが、人が自分ほど本気で仕事に取り組まないときに湧き上がってくる言いようのない怒りをエネルギーにしていました。

 しかしながら、当然ですが、そんなやり方では短期的に結果を出すことはできても、中長期の人間関係を強固にすることは難しい。だんだんメンバーたちが疲弊してくるのです。

 当時の私は性善説を信じずに、人々の仕事ぶりをコントロールしていたので、「信頼されていない」「監視されている気がする」などと言われることもありました。

 そんなやり方でも当時はまだ、規律と馬力によって結果が出せていました。しかし、任されるプロジェクトがさらに大きくなってチームメンバーが増えたとき、私の存在が生み出す“緊張感”によって「やらせる」だけでは、仕事が回らなくなることは明らかでした。