国立難関大学に向かう進学校の進化論

工藤 出願者数だけを見ると、今年はうちがかなり減ったように見えますが、受験生の質は落ちていません。在校生の兄より優秀だと前もって聞いていた弟の受験生も、今年みたいな算数の問題だと、「こんなに難しいのか」と軒並みダメでした。やっぱり、それだけ受験生の全体の質は上がっている。

 うちの学校の入試では、奇をてらうような問題は出しません。そうした問題は、一見おもしろそうに見えますが、地道に努力したことや本当の論理的思考力を測ることには向かないからです。とはいえ、記述問題に重きを置きすぎるのも、選抜試験には適さないでしょう。

――そういう意味では非常に入試問題をよく研究して出していらっしゃいますね。

工藤 それはあるかもしれません。作問には割と時間をかけています。1人の先生に1分野だけを任せるとか、そういうことはせずに、科全体である程度作らせる形を取っています。

――ところで、私の大学の同級生が近所の県立緑ケ丘高校出身でした。当時はまだ、聖光学院はそれほど進学校でもなかったと思います。どういうことがきっかけで進学校化が進んだのですか?

工藤 東大合格実績に関しては、現役浪人合わせてうちが県内トップ校です。少なくとも私が校長になってから、現役生実績では栄光学園を上回ってきました。県立高校との逆転は、やはり2004年度まであった学区制度の影響でしょう。また、1985年から入試を2回行うようになり、間口を広げたこともあると思います。

 進学校の進化論というものがあります。主に日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)に入れていた学校が、GMARCH(学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政)になって、それから早稲田や慶應義塾へとシフトしていく。これは単純に言えば、とにかく英語の力を伸ばしていけば可能になります。

 ところが、国立の難関大学となると、それだけでは足りない。文化的な重なりというか、素養がないと無理です。6年かけて育てるものがないといけない。

――いったい何が必要なのでしょう。

工藤 高校生になって、受験を意識して勉強する時に、精神的に成熟している部分がないと無理なのです。一朝一夕にはそれは身に付きません。高2・高3生の担任をしていたので、そのことはよく分かります。

 私は教頭になった時から、選択芸術の講座など生徒が自由に学ぶ場を作って行きました。STEM(科学・技術・工学・数学)ではなくてSTEAM教育だということですよ。

――「STEAM」の「A」の部分は、芸術もしくはリベラル・アーツですね。

工藤 カリキュラムや学年の枠を超えた体験型の学習講座である「聖光塾」をやっていくことで、生徒が自主的に学び、より考えることができるようになったと思います。